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帯状疱疹ワクチンが認知症リスクを下げるかもしれない?最新の論文を徹底解説

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。近年、帯状疱疹ワクチンの接種が認知症の発症を予防する可能性が示唆される研究報告が相次いでいます。今回はそのような驚くべき論文医ついて内科医の立場から解説してみようと思います。2024年に医学誌「Nature Medicine」に掲載された研究(Taquet et al., 2024)では、米国で65歳以上を対象に調べたところ、**組み換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス)**を接種した人は、従来の生ワクチン(ゾスタバックスなど)を接種した人と比べて、6年以内に認知症と診断されるリスクが有意に低かった(診断されずに過ごせる期間が17%延びた)と報告されています。また同様に、ウェールズの自然実験的なデータでも、帯状疱疹ワクチンを接種した人の認知症リスクが有意に下がるという結果が得られており、その後複数の米国の大規模電子カルテデータを用いた研究でも似た傾向が示されています。


シングリックスとは

帯状疱疹ワクチンには、

  1. 従来の生ワクチン

  2. 最近主流となりつつある組み換えワクチン(シングリックス)

の2種類があります。シングリックスは2017年頃から世界的に普及が始まり、その予防効果の高さからも推奨されるケースが増えています。日本でも自治体によっては補助金制度を設けていることもあり、高齢者の接種数が増えてきました。

なぜ認知症リスクが下がる可能性があるのか?

はっきりとしたメカニズムは分かっていませんが、以下のような仮説があります。

  • ヘルペスウイルス説
    ヘルペスウイルスは脳内にも潜み、何らかの形で認知症発症に関与する可能性があるといわれています。帯状疱疹ワクチンを接種することでウイルスの再活性化を抑制し、結果的に認知症リスクが下がるのではないか、という考え方です。

  • 免疫賦活効果
    特に組み換えワクチンは免疫を強力に刺激する成分を含むため、全身的に免疫反応が改善され、そのおかげで認知症につながる炎症や病態をある程度抑制できるのかもしれない、という説もあります。

いずれにせよ、「帯状疱疹を予防するだけでなく、認知症をも減らせるかもしれない」という一石二鳥のメリットが期待されています。


論文のポイントまとめ

  • Nature Medicine (2024)

    • 65歳以上の約20万人(生ワクチン群、組み換えワクチン群に各10万人超)を対象に解析。

    • 組み換えワクチンを接種したグループは、6年以内の認知症リスクが生ワクチンを接種したグループよりも有意に低かった(約17%差)。

    • 女性で効果がより強く出る傾向もあり、男性も一定のリスク低下が確認された。

    • ただし、因果関係はまだ断定できず、さらなる検証(ランダム化比較試験など)が必要。

  • ウェールズの自然実験

    • 接種を受けられるかどうかを決める年齢制限の「境界線」前後で、帯状疱疹ワクチン接種の有無以外に大きな差のない集団が形成される。

    • そこで生まれ年が少し違うだけで、接種できたグループの認知症発症率が下がることが確認された。

    • この結果が本物だとすればワクチン接種の影響が示唆される。

  • 他のワクチンとの比較

    • インフルエンザワクチンや四種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風など)と比較しても、シングリックス接種群はさらに認知症リスクが低かったという報告も。

    • 帯状疱疹ワクチン特有の何らかの効果があるのでは?と考えられている。


“認知症予防”の決め手? それとも様子見?

「シングリックスを打てば認知症を防げる!」とまでは断定できません。背景には以下のような理由があります。

  1. 複雑な認知症のメカニズム
    アルツハイマー型認知症をはじめとする神経変性疾患は多因子が絡むため、単一ワクチンでどこまで防げるかは慎重に見極める必要があります。

  2. 予防効果の持続期間
    ワクチン接種後にどのくらい効果が持続するのかは十分に分かっていません。実際、論文でも後半になるとリスク低下の度合いが薄れる傾向がみられる解析もあります。

とはいえ、帯状疱疹ワクチンは帯状疱疹そのものを予防する効果が十分確認されているうえに、“もしかしたら認知症リスクも下げられるかもしれない”という期待が持てるのも事実です。帯状疱疹は非常につらい神経痛を伴うことも多く、予防接種で防げるならメリットは大きいと考えられます。


まとめ

  • 帯状疱疹ワクチン(特にシングリックス)接種により、認知症リスクが低下する可能性を示す複数の観察研究が発表されています。

  • 原因としては、ヘルペスウイルスの抑制免疫賦活作用が提案されていますが、まだ完全に証明されてはいません。

  • 帯状疱疹の予防効果は明らか。痛みや合併症に悩むリスクを抑えられるメリットは大きく、さらに認知症予防の“おまけ”効果があるかもしれない、というポジティブな見方もできます。

あなたが接種を検討するなら

  • 持病や年齢、自治体の補助制度なども含めて、かかりつけ医とよく相談することが大切です。

  • 接種後の副反応や費用面、海外のデータも含めて、最新情報を確認しましょう

 

札幌市では65歳以上の方を対象にシングリックスに対する補助制度があります。また当院ではワクチン外来にも力を入れているので、ぜひ当院までご相談ください。(ワクチン外来は電話でのみ対応しております)

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック

院長 小野渉

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