札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。60 歳を過ぎると、インフルエンザワクチンを接種しても若年層ほど抗体が上がらず、流行期の発症・重症化リスクが残る──これは“免疫の加齢”という生理現象が背景にあります。そこで Sanofi が開発したのが、高用量 4 価インフルエンザ HA ワクチン 「エフルエルダ®筋注(以下エフルエルダ)」です。2024 年12 月に「インフルエンザ予防」の効能で国内承認され、2025 年シーズンから使用できるようになりました。本記事では添付文書と国内外第III相試験のデータをもとに、ポイントを絞って内科医の立場から解説します。
なぜ“高用量”が必要なのか
インフルエンザウイルスは A/H1N1・A/H3N2・B/ビクトリア・B/山形という4株が流行の主役ですが、高齢者ではワクチンに含まれる HA 抗原量15 µg/株(従来量)では十分な免疫応答が得られにくいことが複数の研究で判明しています。エフルエルダは HA 抗原量を4倍の60 µg/株(合計240 µg) に増量し、筋肉内へ0.7 mLを1回投与するだけで、標準用量製剤を凌駕する抗体上昇を実現しました。
免疫原性と実臨床上の効果
■ 国内第III相試験(QHD00010)
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60歳以上日本人2,095例で比較
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接種28日後の幾何平均抗体価(GMT)は全4株で2.3〜3.1倍に上昇し、標準用量4価(QIV-SD)に対して統計学的優越性を達成
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抗体陽転率(4倍以上上昇または40倍以上獲得)はエフルエルダ群 74〜82%、QIV-SD 群 40〜48%
■ 海外RCT&コホート(65歳以上)
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高用量3価(TIV-HD)は標準用量3価に対し発症リスクを 24%相対減少
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10シーズン・3,400万例超のメタ解析では、肺炎/インフルエンザ関連入院を 13%, 死亡を 40% 相対減少
上記結果から、高用量設計が「抗体価の優越性」だけでなく「臨床転帰の改善」まで一貫して示したことが最大の強みです。
安全性プロファイル
局所疼痛(43.8%)・頭痛・筋肉痛・倦怠感が 10%以上に報告されるものの、大半は軽度かつ数日で自然軽快。重篤な副反応としてアナフィラキシーやギラン・バレー症候群等が記載されている点は、既存ワクチンと同等です。接種当日の失神予防(座位での経過観察)と高齢者の体調確認を徹底しましょう。
投与方法と同時接種
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対象:60歳以上
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用量:0.7 mL を筋肉内に1回
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時期:国内シーズン前(例年10〜12月)
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同時接種:医師が必要と判断すれば他ワクチンと同時接種可。第II相では mRNA-1273(新型コロナ)との併用でも免疫反応・安全性の相互干渉なし。
接種を見合わせるべき人
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37.5 °C以上の発熱
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重篤な急性感染症
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ワクチン成分でアナフィラキシー既往
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医師が不適当と判断する状態
まとめ:誰に勧める?
インフルエンザによる入院・死亡の大半を占めるのは65歳以上。慢性疾患やフレイルを抱える高齢者にとって、高用量設計のエフルエルダは標準ワクチンより一歩進んだ備えになります。副反応の頻度はやや高めでも重篤例は稀で、得られるメリットが大きいと考えられます。ワクチン選択の際は、かかりつけ医と相談し、自身のリスクとスケジュールに合った接種計画を立てましょう。
いかがだったでしょうか。また次のブログでお会いしましょう。
参考
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添付文書第1版(2024年12月作成)
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国内第III相試験 QHD00010(60歳以上日本人2,100例)
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海外試験 FIM12, QHD00011, QHD00013 他
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WHO Influenza Fact Sheet