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1日1万歩は必要ない?健康寿命を延ばす「最適な歩数」を医師が解説

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。

先日、糖尿病の定期通院で来院された患者様から、診察室でこのようなご相談を受けました。「先生、健康のためには1日1万歩歩かないといけないとテレビで聞きました。でも、仕事も忙しいし、雪道を毎日そんなに歩くのは正直つらいです。やっぱり1万歩歩かないと意味がないのでしょうか」と、とても不安そうな表情でお話しされました。確かに、昔から健康の目安として1日1万歩という言葉がスローガンのように使われてきました。しかし、最新の医学研究では、必ずしも1万歩にこだわる必要はないということが明らかになってきています。今回は、実際にどれくらい歩けば健康効果が得られるのか、複数の論文データをもとに解説します。

1万歩という数字は医学的な絶対基準ではありません

実は、1日1万歩という目標は、1960年代に日本の万歩計メーカーがマーケティングのために打ち出した数字が起源と言われており、当初から医学的根拠に基づいていたわけではありませんでした。もちろん、たくさん歩くことは素晴らしいことですが、1万歩という数字が一人歩きしてしまい、それがプレッシャーになって運動自体をやめてしまっては本末転倒です。近年の研究では、もっと少ない歩数でも死亡リスクの低下や病気の予防効果が十分に得られることがわかってきています。無理をして目標を高く設定しすぎるよりも、自分のできる範囲で継続することの方が医学的にも重要です。

一万歩ってどれくらいの距離なのか :: デイリーポータルZ

死亡リスクを下げるために必要な歩数は6000歩から8000歩です

世界中の研究データを統合した2022年のメタ解析(Paluch et al.)によると、60歳以上の高齢者においては、1日の歩数が6000歩から8000歩に達すると、それ以上歩いても死亡リスクの低下効果は頭打ちになることが示されました。つまり、健康寿命を延ばすという観点だけで見れば、必ずしも1万歩を目指す必要はなく、6000歩から8000歩程度で十分な恩恵を受けられるということです。また、60歳未満の成人でも、8000歩から1万歩あたりで効果が最大化する傾向が見られます。これは、忙しい現役世代や体力が低下してきた高齢者にとって、非常に勇気づけられるデータです。高齢者が安全にウォーキングを行う方法|期待できる効果と注意点|介護のお役立ち情報|有料老人ホームを大阪でお探しなら|ALSOKジョイライフ

心臓病や糖尿病の予防には少ない歩数でも効果があります

歩くことのメリットは寿命を延ばすことだけではありません。HallらやDingらの研究によると、歩数が増えることは、心血管疾患(心臓病や脳卒中)、2型糖尿病、がん、さらには認知機能やメンタルヘルスの改善とも関連していることが報告されています。特に注目すべきは、2000歩4000歩といった比較的少ない歩数であっても、全く歩かない場合に比べれば、心血管疾患のリスクや全死亡リスクが低下するという点です。乱暴に言ってしまえば、「毎日ゼロよりは2000歩でも全然違う」という話です。Stensらの2023年の研究でも、わずかな歩数の増加が健康リスクを下げることが示されています。0か100かではなく、今より少しでも動くことが確実に健康への投資になります。

歩数が増えるごとに、病気のリスクは着実に下がります

Dingらによる系統的レビューとメタ解析では、歩数と健康アウトカムの間には用量反応関係があることが確認されています。これは、薬の量と効き目の関係のように、ある程度までは歩数が増えれば増えるほど健康効果も高まるということを意味します。しかし、Aoらの2024年の包括的なレビューにもあるように、その効果は無限に直線的に伸びるわけではなく、ある地点でカーブが緩やかになります。つまり、現在運動不足の方が2000歩から4000歩に増やす時の健康効果の上がり幅は非常に大きく、すでに1万歩歩いている人が1万2000歩に増やす時の効果よりも劇的です。まずは、現状の歩数にプラス1000歩(約10分)上乗せすることから始めてみましょう。

患者様からよくあるQ&A

Q. 1万歩歩かないと痩せませんか?

A. 減量(ダイエット)を目的とする場合は、消費カロリーを増やす必要があるため、死亡リスク低下を目的とする場合よりも多めの歩数が推奨されることがあります。しかし、食事療法と組み合わせれば、8000歩程度でも十分に体重管理は可能です。

Q. 週末にまとめて歩いても効果はありますか?

A. まとめて歩くことでも一定の効果はありますが、糖尿病の血糖コントロールの観点からは、毎日コンスタントに歩く方が効果的です。食後の血糖値上昇を抑えるためには、分けて歩くことをお勧めします。

Q. 膝が痛いのでたくさん歩けません。

A. 膝や腰に痛みがある場合は、無理に歩数を稼ぐ必要はありません。プールでの水中ウォーキングや、椅子に座ってできる体操など、関節への負担が少ない運動でも効果はあります。痛みを我慢して歩くことは逆効果ですので、ご相談ください。

まとめ

健康のために必ずしも1日1万歩を歩く必要はありません。最新の研究では、6000歩から8000歩程度で死亡リスクを下げる効果が十分に得られることがわかっています。また、それより少ない歩数であっても、糖尿病や心血管疾患の予防効果は期待できます。大切なのは数字に縛られることではなく、ご自身の体力や生活スタイルに合わせて、今よりも少しだけ多く動く習慣を継続することです。

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック 院長 小野渉

当院では糖尿病外来、糖尿病患者を対象とした肥満外来、管理栄養士による栄養指導を行っております。ご興味のある方はぜひご来院ください。

引用論文一覧

  1. Paluch AE, et al. Daily steps and all-cause mortality: a meta-analysis of 15 studies. Lancet Public Health. 2022.

  2. Hall KS, et al. Systematic review of the prospective association of daily step counts with mortality and morbidity. Int J Behav Nutr Phys Act. 2020.

  3. Ding D, et al. Daily steps and health outcomes in adults: a systematic review and dose-response meta-analysis.

  4. Stens NA, et al. Relationship of Daily Step Counts to All-Cause Mortality and CVD Risk. J Am Coll Cardiol. 2023.

  5. Ao Z, et al. Step count and multiple health outcomes: An umbrella review. 2024.

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