札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです、突然ですが皆さんは日々の食事で「銅」の摂取を意識していますか?鉄分やカルシウムは注目されがちですが、微量ながらも私たちの健康に欠かせないミネラル「銅」に焦点を当てる機会は少ないかもしれません。今回は、銅欠乏症に対する新たな治療法として皆さんにも身近な「ココア」を活用した研究をご紹介します。食品でありながら医療的効果が期待されるココアが、どのように患者さんの健康を改善したのかを詳しく見ていきましょう。以下は、ココア(無糖)の100gあたりの主な栄養成分です。ココアは鉄分や銅といったミネラルを多く含んでいることがわかると思います
- エネルギー: 約228kcal
- タンパク質: 約19.6g
- 脂質: 約13.7g
- 炭水化物: 約57.9g(うち食物繊維: 約33g)
- カリウム: 約1524mg
- マグネシウム: 約499mg
- 鉄: 約13.9mg
- 銅: 約3.8mg
高齢化が進む現代社会では、脳卒中や神経疾患などの治療後に経腸栄養が必要となる患者が増加しています。しかし、経腸栄養剤には微量元素の銅が十分に含まれていないものが多く、長期使用により銅欠乏が生じるリスクが指摘されています。従来の治療には硫酸銅などの薬剤が用いられていましたが、調剤の手間や適応の制限から使いづらい場面もありました。その代替として注目されたのが、銅を豊富に含む「ココア」です。
研究概要
1998年から1999年にかけて、ある病院で経腸栄養を受けていた86名(平均年齢69歳)を対象に研究が行われました。そのうち血清銅値が低下していた患者47名に対して、以下のような治療が行われました:
- 重度の銅欠乏患者(血清銅値20μg/dl以下)
純ココアを1日30~45g(銅として1.35~1.93mg)投与。 - 中程度の銅欠乏患者(血清銅値77μg/dl以下)
純ココアを1日10g(銅として0.38mg)投与。
その後、血清銅値が改善した患者には維持療法として、ココア5g(銅として0.19mg)を投与しました。
結果
重度の銅欠乏患者への効果
8名中2名が嘔吐と下痢で治療を中止しましたが、残りの6名では平均42日間で血清銅値が8.7μg/dlから99.0μg/dlに改善しました。
中程度の銅欠乏患者への効果
31名全員が副作用なく治療を継続し、血清銅値が50.5μg/dlから89.0μg/dlに改善しました。
維持療法の効果
改善後にココア5g/dayに減量した患者では、98日間の追跡で血清銅値が安定して維持されました。
ココアの利点
- 安全性と手軽さ
医薬品ではなく食品であるため、副作用が少なく手軽に使用できます。 - 費用対効果
純ココアは1日あたり約88円と、低コストで治療が可能です。 - 多様な健康効果
銅の補充だけでなく、便秘改善や腸内環境の調整効果も期待できます。
注意点
ココアにはカリウムやリンが含まれるため、腎機能が低下している患者さんでは慎重な使用が求められます。また、ミルクココアは純ココアに比べて銅含有量が少ないため、使用量を調整する必要があります。
まとめ
ココアを用いた銅補充療法は、銅欠乏に対する効果的で安全な治療法として注目されています。特に経腸栄養患者における貧血や好中球減少症の改善に有効であり、手軽に実施できる点が魅力的です。
微量元素は見逃されがちな存在ですが、適切な補充が健康維持に大きく貢献します。もし銅欠乏症が疑われる場合には、医師と相談の上で治療にココアを取り入れてみるのも良いかもしれません。
今回はこの辺で、また次のブログでお会いしましょう。
札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック
院長 小野渉
参考文献
- 湧上聖ら, 「長期経腸栄養患者の銅欠乏に対する、ココアによる治療の検討」日本老年医学会雑誌, 37巻, 304-308, 2000年