札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。2025年7月、厚生労働省は9価HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン「シルガード®9」の効能に肛門がんの予防を追加し、接種対象を男性にも広げることを了承しました。これにより、これまで「子宮頸がんワクチン」として女性への接種が中心だったHPVワクチンが、今後は男性のがん予防にも本格的に活用されることになります。今回はHPVワクチンについて内科医の目線から解説してみようと思います。ぜひご一読ください
目次
HPVは“女性だけ”の問題ではない
HPVは主に性的接触を通じて感染するウイルスで、子宮頸がんの原因ウイルスとして広く知られていますが、実は男性でも以下のような疾患の原因になります。
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肛門がん
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尖圭コンジローマ(性器や肛門周囲のいぼ)
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陰茎がん
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中咽頭がん
特に肛門がんの80〜90%がHPV感染と関係しているという報告もあり、男女問わず予防の必要性が高まっています。
シルガード®9とは?
シルガード®9は、以下の9つのHPV型に対応したワクチンです:
6、11、16、18、31、33、45、52、58型
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HPV16・18型などは子宮頸がんや肛門がんの主要原因
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HPV6・11型は尖圭コンジローマの原因
これらの型は、がんやイボの発症に大きく関与していることが研究から明らかになっています。
男性への接種対象拡大の内容
今回了承されたポイントは以下の通りです:
内容 | 詳細 |
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対象年齢 | 9歳以上 |
接種回数 | 15歳未満:2回接種 15歳以上:3回接種 |
接種費用 | 現時点では男性は自費接種 (定期接種化すれば公費負担の可能性あり) |
新たな効能 | 肛門がんおよび尖圭コンジローマの予防 |
なぜ男性にもHPVワクチンが必要なのか?
これまでHPVワクチンは「子宮頸がん予防」として女性中心に接種されてきましたが、男性にも以下の理由から重要です。
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**肛門がんの予防:**検診が確立しておらず、早期発見が難しい
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**尖圭コンジローマの予防:**再発しやすく、心理的負担も大きい
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**パートナーへの感染予防:**性行為を通じて女性へ感染させる可能性がある
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**男女の公平な公衆衛生対策:**諸外国ではすでに男女共に定期接種が進んでいる
世界の動向と日本の現状
2024年8月時点で、「シルガード®9」は90カ国以上で男性への適応を取得済みであり、さらに70カ国以上で男女への定期接種が導入されています。日本もようやく国際標準に追いつく大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう。
まとめ:HPVワクチンは“性別を問わない”予防ワクチンへ
肛門がんは、決して珍しいがんではなく、HPVが大きく関与する予防可能ながんです。今回の厚労省の了承により、男性にも予防の機会が与えられることは、公衆衛生上の大きな前進です。
特に、10代から20代の若年層が性行動を始める前にHPVワクチンを接種することで、将来のがんリスクを大幅に下げることができます。
参考文献・出典
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厚生労働省HPVワクチン関連資料
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MSD株式会社「シルガード®9」報道資料
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山本健人医師「肛門がんとHPV感染」記事
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PubMed: Human papillomavirus infection and associated cancers