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経口インスリン(oral insulin)の開発が糖尿病治療に革新をもたらす

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。今回は2024年5月に発表された開発段階の経口インスリンについてです。現在インスリンは皮下注射によるものがメインでどうしても糖尿病患者様に負担を強いてしまっています。経口インスリンの開発は糖尿病の治療を根本的に変革させる可能性があります。開発までにはまだまだ時間がかかりそうですが、今回はそんな経口インスリンについてまとめてみました。

始めに

糖尿病の治療において、インスリンは依然として最も効果的かつ持続的な血糖降下剤です。経口インスリンの導入により、患者のコンプライアンスとアドヒアランスが向上する可能性があり、生理学的な利点も提供されるでしょう。経口インスリンは自然なインスリン分泌経路を模倣し、門脈を通じて肝臓に直接作用するため、糖代謝における肝臓の役割を最適化します。ここでは、経口インスリンの生理学的利点と現在の技術的進展について詳述します。

経口インスリンの生理学的利点

通常、インスリンは膵臓のβ細胞から門脈に分泌され、肝臓に直接運ばれます。分泌されたインスリンの最大80%が最初の通過で肝臓に取り込まれ、インスリン受容体に結合します。この「門脈シグナル」として知られる現象は、門脈中のインスリン濃度が全身循環の2.5~3倍高くなることに起因します。経口インスリンはこの自然な経路を模倣し、消化管から門脈に吸収されることで、直接的に肝臓に作用し、糖代謝において好ましい影響をもたらす可能性があります。

さらに、経口インスリンは以下のような追加の利点を提供する可能性があります:

  • 高インスリン血症の減少
  • 体重増加の防止
  • 低血糖リスクの軽減

健康な人では、肝臓は食後の血糖値を狭い範囲内に維持するために重要な役割を果たします。食事摂取後、血糖値は肝臓のグルコース産生の抑制、肝臓へのグルコース取り込みの刺激、および末梢組織によるグルコース取り込みの誘導によって調整されます。糖尿病患者では、この調整が不十分であるため、食後高血糖が発生します。経口インスリンは、食事に対するインスリン反応を改善し、肝臓のグルコース産生をより効果的に抑制することで、この問題を軽減する可能性があります。

経口インスリンの技術的進展

経口インスリンの開発には、多くの技術的課題が伴います。インスリンは消化管内で酵素によって分解されやすく、大分子であるため吸収が難しいという問題があります。しかし、最近の技術的進展により、これらの課題を克服するための様々なプラットフォームが開発されています。

インスリン分解抑制の仕組みの導入

経口インスリンの開発において、最も重要な技術の一つは、インスリンを消化管内での分解から保護するシステムです。例えば、Oramed Pharmaceuticalsは、インスリンをカプセルに封入し、胃酸や酵素から保護する技術を開発しました。この技術により、インスリンは腸で効果的に吸収され、門脈に到達します。

吸収促進技術

他の企業も、インスリンの吸収を促進するための技術を開発しています。例えば、Bioconは、インスリン分子に化学修飾を施し、酵素分解に対する耐性を持たせる技術を使用しています。また、Diasome Pharmaceuticalsは、インスリンをリポソームに封入し、肝細胞に直接ターゲットする技術を開発しています。この技術により、少量のインスリンで効果を発揮できるようになります。

臨床試験の進展

いくつかの企業は、これらの技術を使用して経口インスリンの臨床試験を行っており、有望な結果を得ています。例えば、Oramedは、健常者および糖尿病患者を対象とした第I相試験で、安全性と有効性を確認しています。また、BioconやDiasomeも、経口インスリンの臨床試験を進めています。

経口インスリンの将来

経口インスリンが市場に出ることで、糖尿病患者の治療に新たな選択肢が提供されるでしょう。経口インスリンは、注射に対する恐怖や不快感を軽減し、患者のコンプライアンスを向上させることが期待されます。また、早期からのインスリン治療を促進し、長期的な血糖管理を改善することが可能です。

現在日本では週一回のインスリンイコデクが販売間近ですが、経口インスリンは、糖尿病治療に革命をもたらす可能性を秘めています。生理学的に自然なインスリン分泌経路を模倣することで、経口インスリンはより効果的かつ安全な治療法となるでしょう。今後の研究と技術開発により、経口インスリンの実用化が進むことを期待しています。

今回はこの辺で、また次のブログでお会いしましょう

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