札幌駅近く、大通り駅近くの小野百合内科クリニックです。テクノロジーの進化は素晴らしく、私たちの健康管理はスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスによって劇的に便利になりました。しかし、その便利さの影で、糖尿病患者さんの命に関わる危険な誤解が広がっていることをご存知でしょうか。最近、インターネット通販などで「針を刺さずに血糖値が測れる」と謳うスマートウォッチや指輪型のデバイスが数多く販売されています。これに対し、アメリカ食品医薬品局(FDA)が「使用しないように」という極めて強い警告を発しました。本日は、なぜこれらのデバイスが危険なのか、最新の注意喚起について詳しく解説します。
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目次
FDAが発した未承認デバイスへの異例の警告
2024年2月、アメリカのFDAは、皮膚を貫通せずに血糖値を測定できると主張するスマートウォッチやスマートリングなどのデバイスについて、安全性に関する警告文を発表しました。FDAは、これらのデバイスがいかなる承認も受けておらず、その測定精度や安全性について保証できないと明言しています。現在、医療機器として正式に認められている血糖測定器は、従来の指先穿刺型か、あるいはフリースタイルリブレのように微細なセンサーを皮下に留置する持続グルコース測定器(CGM)のみです。皮膚の上から光を当てるだけで正確な血糖値が測れるという魔法のようなデバイスは、現時点では医学的に存在しないのです。
不正確な数値が招くインスリン過剰投与の恐怖
なぜFDAがこれほど強く警告するのか、その最大の理由は「不正確な数値が命に関わる事故を引き起こす可能性があるから」です。もし、そのスマートウォッチが実際よりも高い血糖値を表示してしまったらどうなるでしょうか。患者さんはその数値を信じてインスリンを打ち、その結果、重篤な低血糖発作を引き起こす恐れがあります。逆に、実際には高いのに低い数値が表示されれば、必要な治療が行われず高血糖昏睡に陥るリスクもあります。単なる歩数計や心拍数計の誤差とは異なり、血糖値の誤差は、インスリン治療を行っている方にとっては生死に直結する重大な問題なのです。
大手メーカーの製品と「謎の激安品」の決定的違い
ここで注意が必要なのは、アップルウォッチなどの有名メーカーの製品と、通販サイトで見かける安価な測定器の混同です。AppleやSamsungなどの大手企業も、針を使わない血糖測定技術の研究開発を行ってはいますが、現時点では製品化には至っていません。現在アップルウォッチで血糖値を確認できるのは、デクスコムやリブレなどの承認されたCGMデバイスと「連携」してデータを表示している場合のみです。つまり、ウォッチ単体で測っているわけではありません。AmazonやTemuなどで数千円で売られている「採血不要」を謳うノーブランドの製品は、医療機器としての裏付けが全くないものだと理解する必要があります。
測定原理の壁と現在の医療技術の限界
皮膚の上から光を当てて血中の糖分を測るという技術は、世界中の研究者が何十年も挑み続けている難題です。汗や体温、皮膚の色、外の明るさなど、測定を邪魔する要因があまりにも多く、医療レベルの精度を出すことは極めて困難だからです。もちろん将来的には技術革新によって実現する日が来るかもしれませんが、それはまだ「未来の話」です。少なくとも2024年の現在において、ネット広告で流れてくるような安価なデバイスでそれが実現できているとは考えにくく、これらを信頼して治療方針を決めることはあまりに危険です。
正しいデバイス選びがあなたの命を守ります
新しいガジェットは魅力的ですし、痛みを伴う毎日の血糖測定から解放されたいという願いは、痛いほどよく分かります。しかし、現時点では「楽に測れる」という甘い言葉には罠があります。ご自身の血糖管理には、必ず厚生労働省やFDAなどの規制当局によって承認された医療機器を使用してください。フリースタイルリブレのようなCGMであれば、指に針を刺す回数を劇的に減らしつつ、正確なデータを得ることができます。もし新しいデバイスの使用を検討されている場合は、購入ボタンを押す前に、必ず私たち医師や医療スタッフに相談してください。
テクノロジーは私たちを助けてくれますが、使い方を間違えれば凶器にもなり得ます。特にインスリンや経口血糖降下薬を使用されている方は、未承認のデバイスの数値を鵜呑みにせず、確実な方法でご自身の体を守ってください。便利さよりも安全性を最優先に、正しい知識を持って糖尿病治療に向き合っていきましょう。
患者からよくあるQ&A
Q1 Apple Watchで血糖値が見られると聞いたのですが、あれは嘘なのですか。
A 嘘ではありませんが、仕組みが違います。Apple Watch自体が血糖値を測っているのではなく、腕に装着した「フリースタイルリブレ」や「デクスコム」といった医療用センサーが測ったデータを、BluetoothでApple Watchに飛ばして「表示」しているだけです。つまり、必ず医療用のセンサーを体に装着する必要があります。時計単体で測れる機能はまだ搭載されていません。
Q2 参考程度に見るだけなら、安物のスマートウォッチを使ってもいいですか。
A 医師としてはお勧めできません。「あくまで参考」と思っていても、画面に数字が表示されると、人間は無意識にその数字に影響を受けてしまいます。例えば「時計では低いから、おやつを食べてもいいか」と判断してしまったり、逆に「高いから運動しなきゃ」と焦ったりします。その数字がデタラメであれば、生活習慣の管理自体が狂ってしまいます。
Q3 将来的には、針なしで測れるようになるのでしょうか。
A はい、その可能性は十分にあります。AppleやSamsungをはじめ、多くの企業が莫大な資金を投じて開発競争を行っています。光センサーや汗、涙などを使って測定する技術が進歩しています。しかし、それが「医療機器」として承認され、安全に使えるレベルになるには、まだ数年はかかると言われています。実用化された際には、必ずニュースになりますし、病院でも案内できるようになるはずです。
札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック 院長 小野渉


