札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。今回は緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)についてです。2023年、日本糖尿病学会は「緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)」の診断基準を改訂し、これに基づく治療介入に関するステートメントを発表しました。この改訂では、緩徐進行1型糖尿病の診断精度を高めるための新たな基準が設定されるとともに、治療における選択肢が再評価されています。本記事では、改訂のポイントや治療指針、今後の課題を詳しく解説します。
緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)とは?
1型糖尿病は、膵β細胞が自己免疫によって破壊されることでインスリンが分泌されなくなる疾患です。その中でもSPIDDMは、比較的ゆっくりとインスリン分泌能が低下していく特徴を持ちます。この病型では、診断当初はインスリン治療が不要である場合が多く、時間の経過とともにインスリン依存状態へと進行します。そのため、早期診断と適切な治療介入が病態進行を遅らせる鍵となります。
診断基準の改訂ポイント(2023年版)
SPIDDMの診断基準は2012年に初めて策定されましたが、10年以上の臨床経験や研究の成果を基に2023年に改訂が行われました。主な改訂内容は以下の通りです。
必須項目
- 膵島関連自己抗体の陽性
- GAD抗体、ICA、IA-2抗体、ZnT8抗体、IAA(インスリン治療開始前に測定)を含む。
- 糖尿病診断時にケトーシスまたはケトアシドーシスがない
- 初期段階でインスリン治療を必要としないこと。
- インスリン分泌能の漸進的低下
- 診断後3ヶ月以上を経てインスリン治療が必要となり、最終的に内因性インスリン欠乏状態(空腹時Cペプチド < 0.6 ng/mL)に至る。
判定基準
- Definite(確定診断)
必須項目1〜3をすべて満たす場合。インスリン依存状態に進行したとみなされる。 - Probable(疑い)
必須項目1と2を満たし、3を満たさない場合。インスリン非依存状態が維持されている段階。
この改訂により、診断基準に新たにIA-2抗体やZnT8抗体が追加され、より多様な症例を網羅することが可能になりました。また、「Definite」と「Probable」の明確な分類により、治療介入の方向性が整理されました。
治療介入におけるポイント
インスリン治療の位置づけ
インスリン治療は、内因性インスリン分泌能の保持に役立つとの報告がありますが、すべてのSPIDDM患者に早期から必須というわけではありません。とくに「Probable」の段階では、内因性インスリン分泌能が残存しているため、非インスリン治療も選択肢として考慮されます。
SU薬(スルホニル尿素薬)、チアゾリジン薬の回避
Tokyo Studyなどのエビデンスにより、SU薬の使用は膵β細胞の破壊を加速させる可能性が示されています。そのため、SU薬は緩徐進行1型糖尿病における治療選択肢として避けるべきとされています。またチアゾリジン薬は推奨されておりません。
治療選択肢としての他の薬剤
- DPP-4阻害薬
少数ながら内因性インスリン分泌能の保持に有用である可能性が示されています。 - ビグアナイド薬(BG薬)
腸内環境の改善を通じて免疫能に影響を及ぼす可能性があり、治療選択肢の一つとなり得ます。 - その他の薬剤
GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、αグルコシダーゼ阻害薬、グリニド薬、イメグリミンなどは、現時点でエビデンスが不足しています。
治療後の経過観察と管理
治療を開始した後も、経時的な血糖コントロール状態や膵β細胞機能(Cペプチド値)の評価が重要です。内因性インスリン分泌の低下が認められた場合、速やかにインスリン治療を導入し、インスリン依存状態への進行を抑えることが求められます。また、中期的な血糖コントロールに加え、長期的には糖尿病性血管合併症の進展を防ぐ観点からの評価が必要です。これにより、より包括的な治療戦略の策定が可能になります。
いかがだったでしょうか。
今回はこの辺で。
札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック
院長 小野渉