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【医師解説】高血圧・脂質異常症でも我慢しない!塩と油の代わりに「出汁」を使う医学的メリット

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。先日、当院のある患者さんから、今の季節ならではの、とても共感できるご相談をいただきました。

「先生、寒い冬は温かい飲み物が飲みたくなります。 ラーメンのスープ、おでんの汁、スープカレー、お鍋の残り汁、コンポタージュ……。 ついつい美味しくて飲み干してしまいます。でも、脂質異常症や高血圧のことを考えると、これらを常に飲むわけにはいきませんよね。 脂質や塩分を気にせずに飲める、おすすめの温かい飲み物はありますか? ただのお湯(白湯)なんて美味しくないし、やっぱりお茶やコーヒー、紅茶しかないんでしょうか?」

この言葉を聞いて、私自身も「わかる!」と心の中で大きく頷いてしまいました。

実は私も、ラーメンのスープや、出汁の染みたおでんのつゆを飲み干したくなる衝動に駆られることがよくあります。特に北海道の冬は、あの塩気と旨味が体に染み渡るんですよね。高血圧や脂質異常症の治療中の方にとって、塩分や脂質を控えた食事は「味が薄くて美味しくない」「物足りなくてストレスが溜まる」という大きな悩みの種になりがちです。実は、無理に薄味に慣れようと努力するよりも、日本人が昔から親しんできた「出汁(だし)」の力を借りる方が、医学的にも理にかなった食事療法であることをご存知でしょうか。今回は、塩や油の代わりに出汁を使うことで、なぜ脳が満足し、健康になれるのかについて、最新の研究データを基に解説します。

旨味成分を活用することで塩分を30パーセント減らしても脳はおいしいと感じる

減塩食が続かない最大の理由は、塩気が足りないことによる味気なさにあります。しかし、味覚に関する研究論文によると、昆布に含まれるグルタミン酸などの旨味成分を料理に加えることで、塩分濃度を大幅に下げても、脳はおいしさを維持して感じることが分かっています。具体的には、旨味が十分に効いているスープであれば、塩分を通常より約30パーセントから50パーセント減らしても、味の満足度が下がらないことが示されています。これは、舌にある旨味の受容体が刺激されることで、脳が風味全体を強く知覚する一種の錯覚を起こすためです。出汁を濃くとることは、単に風味を良くするだけでなく、少ない塩分でも脳を満足させるための医学的なテクニックと言えます。

脂質の代わりに出汁のコクを足すことでこってりした満足感が得られる

揚げ物やラーメンなどの脂っこい食事がやめられないのは、脂肪が生み出す独特のコクや厚みのある味わいを脳が欲しているからです。これを無理やり断つのは困難ですが、出汁に含まれるアミノ酸やペプチドが生み出すコク味(こくみ)という感覚が、脂質の代わりになることが近年の研究で明らかになっています。旨味やコク味成分を強化した低脂肪食を食べると、脳はまるで高脂肪食を食べた時のような濃厚な口当たりや満足感を得ることができます。つまり、油を減らして物足りなくなった分を、濃厚な出汁のコクで埋め合わせることで、カロリーとコレステロールを抑えつつ、食べた後の精神的な満足感をキープすることが可能になるのです。Dashi: A Basic Ingredient to Japanese Umami | Asian Inspirations

食事の最初に温かい出汁を飲むことで食べ過ぎを自然に防ぐことができる

出汁には食欲を増進させるイメージがあるかもしれませんが、実はダイエットにおける強力な味方でもあります。臨床栄養学の研究では、旨味成分を含んだスープを食事の最初に摂取すると、その後の食事における満腹感が高まり、トータルのカロリー摂取量が減少することが報告されています。これは、旨味が消化管を刺激して「栄養が入ってきた」というシグナルを脳に送り、早期に満腹中枢を満足させるためと考えられています。コース料理の最初に出てくるスープのように、まずは温かい出汁を一杯飲むことから食事を始めるだけで、無理なく腹八分目で箸を置くことができるようになります。

高価な食材は不要でありスーパーで買える鰹節や昆布で十分に効果がある

出汁をとると聞くと、料亭のような手間暇をイメージされるかもしれませんが、健康効果を得るためにはそこまで厳密である必要はありません。スーパーで売っている鰹節パックにお湯を注ぐだけでも、あるいは水に昆布を一晩つけておくだけでも、十分な旨味成分を抽出することができます。また、最近では食塩無添加の出汁パックや粉末出汁も数多く販売されています。重要なのは、高級な食材を使うことではなく、毎日の味噌汁や煮物、炒め物において、調味料(醤油や塩)を入れる前に、まず出汁をしっかりと効かせるという習慣をつけることです。

食事療法は、美味しさを犠牲にして我慢することだと思われがちですが、出汁を味方に付ければ「美味しくて健康的」という理想的な状態を作ることができます。塩や油を減らした分のスペースを、旨味という贅沢で埋める感覚で取り組んでみてください。味覚は習慣によって変わるものであり、出汁の味に慣れてくると、今まで食べていた外食がいかに塩辛く、油っこいものであったかに気づくはずです。当院では、薬の処方だけでなく、患者様のライフスタイルに合わせた無理のない栄養指導も行っております。

患者様からよくある質問に答えます!!

Q1. 市販の顆粒だしを使っても健康効果はありますか? A. 「食塩無添加」のものを選ぶことが非常に重要です。 一般的な顆粒だしには、保存性を高めたり味を整えたりするために、多くの「食塩」が含まれていることがあります。これでは減塩の意味がなくなってしまいます。パッケージの裏面を見て「食塩相当量」を確認し、できるだけ「化学調味料・食塩無添加」と書かれたものや、鰹節粉末100パーセントのもの選ぶようにしてください。

Q2. どの種類の出汁が一番健康に良いのでしょうか? A. 「昆布」と「かつお」の合わせ出汁が最強です。 昆布に含まれる「グルタミン酸」と、かつお節に含まれる「イノシン酸」を組み合わせると、旨味が単独の時の約7倍から8倍に跳ね上がる「旨味の相乗効果」が起きます。これを利用することで、より少ない塩分で強い満足感を得ることができます。また、昆布には血圧を下げるカリウムや食物繊維も豊富に含まれているため、高血圧の方には特におすすめです。

Q3. 出汁を飲むだけで痩せることができますか? A. 出汁自体に脂肪燃焼効果はありませんが、食事改善の土台になります。 出汁を飲めば勝手に脂肪が燃えるわけではありません。しかし、記事で解説したように「こってりしたものを食べたい欲求」を抑えたり、「早食い・食べ過ぎ」を防いだりする効果は絶大です。

参考文献

  1. Wallace TC, et al. Umami Taste Perception and Its Role in the Regulation of Sodium Intake. Food Sci Nutr.

  2. Nomura S, et al. “Umami: An Alternative Japanese Approach to Reducing Sodium While Enhancing Taste Desirability” Health. 2021; 13: 618-630.

  3. Masic U, Yeomans MR. Umami flavor enhances appetite but also increases satiety. Am J Clin Nutr. 2014;100(2):532-538. doi: 10.3945/ajcn.113.080929.

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