札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。近年、テレビや雑誌などで「DHAを摂ると頭がよくなる」「EPAは血液をサラサラにしてくれる」などといったフレーズを耳にする機会が増えました。実際に、それらはまったくの間違いというわけではありません。DHAやEPAには、私たちの健康維持や生活習慣病の予防に役立つ多面的な作用があることがわかっています。今回は、このDHAとEPAについて、特に両者がどのように異なり、どんな特徴があるのか、またサプリメントの取り方についてを内科医の目線から解説します。このブログを読んでEPAやDHAについての理解を深められれば幸いです。
目次
DHAとEPAはどちらも「必須脂肪酸」
DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、ともに青魚の脂に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸です。私たちの体内ではほとんど作り出せず、食事など外部から摂取しなければならないため「必須脂肪酸」と位置づけられています。日本人の魚離れが指摘されている昨今、DHAやEPAの摂取が不足しやすい環境にあるため、これらを効率よく摂る工夫が必要だと言われています。
「魚を食べると頭が良くなる」は本当?
昔から「魚は頭に良い」と言われてきました。その大きなきっかけは、1980年代後半に「DHAは脳や網膜などの神経系組織に多く含まれる」という発見が話題となったことにあるようです。実際に、脳や神経系にはDHAが豊富に存在しており、DHAの摂取が子どもの脳発達に何らかの好影響をもたらすという研究結果もいくつか報告されています。また、オーストラリアの研究では乳児にDHAを摂取させた場合の言語発達に関する良好なデータが示唆されたこともあり、成長期におけるDHAの重要性を裏付ける一つの証拠と言えるでしょう。
一方で、大人がDHAを摂ったからといって劇的に記憶力や思考力が向上するかどうかは、現時点では定説とはなっていません。DHAに関するヒト試験の多くは、EPAも含まれている魚油で行われてきた歴史があり、「DHAだけを高純度で摂ったらどうなるのか?」についてはまだ研究途上といえます。そのため、「DHAサプリを大量に飲めば頭がよくなる」というような単純なものではありません。脳機能向上を狙うのであれば、あくまでバランスのよい食生活や十分な睡眠、適度な運動など、包括的なライフスタイルの改善が必要です。
EPAの特徴は「血液をサラサラ」にする作用
EPAは、1960年代後半にグリーンランドのイヌイットたちの食習慣や心疾患リスクの低さに関する研究から注目され始めました。その後、多くの疫学調査や臨床試験が積み重ねられ、
- 血小板の凝集を抑制し、血栓ができにくくなる
-
中性脂肪を下げる
- 動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞を予防する
といった効果があることが明らかになってきたのです。さらに日本では、高純度のEPAを有効成分とする医薬品が開発され、高脂血症の治療や閉塞性動脈硬化症の治療にも用いられています。
実際に、国内外の大規模臨床試験であるJELIS試験などからも、スタチンと組み合わせてEPA製剤を摂取することで、虚血性心疾患の発症リスクを低減できる可能性が示されています。ただし、EPAは体内にストックされにくく、摂取をやめるとすぐに血中濃度が低下することがわかっています。そのため、継続的かつ定期的に摂り続けることが、心血管系の健康を維持するうえで非常に重要なのです。
EPAとDHAは代わりにならない?
「DHAとEPAは似ているので、どちらかだけでもOKなのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、「血液をサラサラにする」という観点では、DHAはEPAほどその作用がはっきりと確認されていません。実際に赤血球の柔軟性がどれだけ改善されるか比較する試験でも、EPAを摂取した場合には赤血球膜が柔らかくなり血液粘度が低下したのに対し、DHAでははっきりした変化は見られなかったと報告されています。
つまり、EPAには血液サラサラ効果のエビデンスが明確に存在するのに対し、DHAは脳や神経における構成要素としての役割が注目されているというように、期待される働きが異なるのです。
EPA(エイコサペンタエン酸) | DHA(ドコサヘキサエン酸) | |
主な役割 | 血液サラサラ効果・血栓予防 | 脳や神経系の発達・機能維持 |
影響を与える部位 | 血液・血管 | 脳・神経・視力 |
研究の歴史 | 1960年代に発見 | 1980年代後半に注目 |
期待される健康効果 | 動脈硬化・心筋梗塞・脳梗塞の予防 | 記憶力向上・視力維持・抗炎症作用 |
多く含まれる魚 | イワシ、サバ、サンマ、ブリ | マグロ、カツオ、サケ、サンマ |
魚から摂るのが理想だが、調理法にも工夫を
DHAやEPAを摂取する上でもっとも理想的なのは、青魚を中心とした魚を食事で摂り続けることです。刺身のように生食であれば、DHAやEPAが油とともに外へ逃げてしまう心配も少なく、効率的に摂取できます。一方、焼き魚や揚げ物にすると、DHAやEPAを含んだ脂が落ちてしまったり、高温調理で壊れてしまうことがあります。缶詰の汁にはDHAやEPAが多く残っているので、それらも活用して上手に摂りましょう。
また、EPAやDHAの量は魚の種類によっても大きく異なります。たとえばイワシやサバ、サンマ、サケ、マグロのトロなど、脂の乗った青魚にはEPAやDHAが豊富に含まれていますが、白身魚やマグロの赤身にはあまり含まれていません。週に数回こうした青魚を食卓に取り入れつつ、調理法を工夫して脂が流れ出るのを防ぐことで、より多くのEPA・DHAを摂取できるでしょう。
ただし、毎日魚を調理するのは大変だったり、好みの問題で魚を頻繁に食べられない方もいるかもしれません。そんな場合は、サプリメントを活用するのも一つの方法です。とはいえ、サプリメントは医薬品とは異なり、有効成分の含有量がそれほど多くないケースも多々あります。高い費用をかける割にEPAやDHAを十分に摂れない場合もあるため、サプリ選びには注意が必要です。もしすでに脂質異常症などで治療を受けている場合には、主治医と相談して適切な選択をするようにしましょう。
成人はEPA中心、子どもはDHAを意識すると効果的
これまでの研究を総合すると、すでに脳や神経組織が十分成長した成人にとっては、血管や血液の健康維持に直接的に関わるEPAがより重要だと考えられます。もちろんDHAも大切な栄養素ですが、EPAを摂取していれば体内で必要な分のDHAが生成される場合もあり、さらに魚油にはもともとDHAも含まれています。
一方で、脳や神経系が発達段階にある子どもや乳幼児には、DHAの役割が注目されています。母乳に豊富に含まれることからも、DHAは脳や神経の成長過程に欠かせない成分であると考えられるのです。
どのくらい摂れば良いのか?
厚生労働省では、DHAとEPAを合わせて1日当たり1g以上摂ることが推奨されています。これを魚で置き換えると、青魚(イワシやサバなど)の脂がのった部分を週に2~3回、200~300g食べるのが理想と言われます。例えば、サンマ1尾やイワシ2尾、マグロのトロ4~5切れ、ブリ6~7切れほどが目安になります。ただし、これを毎日の食生活で実行するのはなかなか難しいのも現実です。だからといって無理に大量摂取を目指す必要はありません。長期的にバランスのよい食生活を続ける中で、青魚をできるだけ取り入れることが大切です。
サプリメントへの過度な期待は禁物
中性脂肪やLDLコレステロールが高い方は、医療機関で薬を処方される場合があります。高純度EPA製剤などは、動脈硬化の予防に確かなエビデンスがある一方、DHAとEPAの混合製剤の中には、大規模臨床試験で有用性を示せなかったものも存在します。サプリメントに関しても、「DHAやEPAが入っていれば何でも良い」というものではありません。含有量やコストパフォーマンス、副作用のリスクなどを総合的に判断する必要があります。また、過剰摂取した場合の安全性についても気になるところですが、欧州食品安全機関(EFSA)では1日5g、米国では1日3g程度の摂取で問題ないとされています。日本でもn-3系脂肪酸として1日2g前後が推奨されており、通常の食事や適度なサプリメント利用でこの上限を大きく超えることはあまりありません。ただし、血液を固まりにくくする抗血栓薬を服用している方は、必ず医師に相談してから使用するようにしましょう。
妊娠中の摂取や水銀の問題
また、魚によっては水銀を含んでいるケースがあり、特に妊娠中の方は注意が必要です。胎児への影響が懸念されるため、魚の種類や摂取量に関しては厚生労働省がガイドラインを示しています。ただし、DHAやEPAなどの精製魚油サプリメントにおいては、高度な加工過程を経て水銀などの重金属はほぼ除去されていることが多いため、過度に心配する必要はありません。それでも、病気の治療中や妊娠中である場合は、自己判断せずに主治医や専門家の指示を仰ぎましょう。
さらなるポイント:継続とバランスが鍵
DHAやEPAは、1日や2日で目に見えて効果を発揮するものではなく、長期的に摂り続けてこそその真価が発揮されます。青魚を食卓に取り入れつつ、サプリメントなどを上手に補助的に使いながら、無理なく継続することがポイントです。また、魚介だけでなく、野菜や果物、穀類、良質なタンパク質源などをバランスよく組み合わせることで、より総合的な健康増進につながるでしょう。
最後に
DHAとEPAは、似ているようで異なる特徴を持った大切な必須脂肪酸です。私たちの体を支える基礎的な栄養素として、多くの研究がその有用性を示しています。魚をあまり食べない方や、忙しくて調理の手間をかけられない方でも、缶詰やサプリメントを上手に取り入れることで、無理なくDHA・EPAを補給していくことができます。長期的な視野で、コツコツと継続することが何より重要です。
まとめ:DHAとEPAは性質が似て非なるもの
DHAとEPAは、どちらも青魚の脂に含まれる必須脂肪酸でありながら、その役割や体内での動きは少し異なります。EPAは血液をサラサラに保ち、中性脂肪を抑制して循環器系の病気を予防する効果が期待されています。一方、DHAは脳や神経系に深く関わり、成長期の乳幼児にはとくに欠かせない成分です。大人の場合はEPAを意識して摂取していれば、DHAも十分に補える可能性が高いとされています。魚食が苦手な場合は缶詰など調理方法を工夫したり、サプリメントを適切に選んだりしながら、長期的・継続的な摂取を心がけましょう。
最終的には、DHAとEPAの両者とも体に必要な必須脂肪酸であることは間違いありません。「頭に良い」「血液サラサラに効く」という一面だけに囚われず、バランスのよい食事と健康的なライフスタイルの中で、賢く取り入れることが大切です。今後も研究の進展により、DHAやEPAの新たな可能性が明らかになることが期待されます。興味がある方は、ぜひ日々の食事や生活習慣において意識してみてください。
当院では管理栄養士による栄養指導やダイエット外来を行っております。興味のある方はぜひご来院ください。
札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック
院長 小野渉