札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。糖尿病という名称にまつわる議論が今、注目を集めています。2023年9月、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会が新名称として「ダイアベティス」を提案しました。従来の名称では患者に対する偏見や誤解を助長する可能性があることが背景にあります。本記事では、「ダイアベティス」の提案に至る経緯やその意義、名称変更が与える社会的影響について糖尿病内科医の目線から詳しく解説します。
糖尿病の新名称「ダイアベティス」とは?
「ダイアベティス」は、糖尿病の国際的名称である “diabetes” をカタカナ化したもので、世界的にも認識されている表現です。日本国内では「糖尿病」という病名が一般的ですが、この名称にはさまざまな課題が指摘されています。
ダイアベティスの語源と意味
「diabetes」という言葉は紀元2世紀、カッパドキアの医師アレタイオスによって命名されました。この言葉には、「通過する」という意味があり、多飲・多尿といった糖尿病の特徴を表しています。一方で、日本語の「糖尿病」は「糖」や「尿」といった具体的なイメージが強く、不快感や偏見を与える可能性があると言われています。
なぜ名称変更が必要なのか?~背景にあるスティグマ問題~
糖尿病は長い間、「生活習慣の問題」「甘いものの摂りすぎ」といった誤解が伴い、患者に対する偏見を生む原因となってきました。このような背景から、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は名称変更の必要性を訴えています。
現在の名称が抱える問題
- 偏見を助長
「糖尿病」という名称は、「だらしない生活」の象徴と誤解されることが多く、患者が病状を周囲に隠す要因となっています。 - 病態を正しく反映していない
実際には尿に糖が出ない場合もあり、「糖尿病」という名称が正確ではないケースもあります。 - 患者への心理的負担
「尿」という言葉を含むことで不潔な印象を与え、患者の心理的負担が増加することが指摘されています。
スティグマの影響
偏見(スティグマ)は、患者の社会生活や治療に大きな影響を与えます。患者が病状を隠し、医師の診察を避けることで、適切な治療機会を失い、重症化や合併症につながる悪循環が生じる可能性があります。これにより医療費の増加や社会保障の負担増という、社会全体に広がる課題となります。
「ダイアベティス」に対する意見の多様性
新名称「ダイアベティス」について、患者や医療関係者の間で意見が分かれています。医療専門サイトm3.comによる調査では以下のような結果が得られました。
医師の意見
- 反対:46.15%
- 賛成だが『ダイアベティス』には反対:40.01%
- 代替案:「糖代謝異常症」「高血糖症」など
患者の声
一部の患者は、「糖尿病」という名称の不快感や抵抗感を指摘しています。不潔なイメージや「甘いものの摂りすぎ」といった誤解を払拭するため、新名称への期待を抱く人も多い一方で、「ダイアベティス」のカタカナ表記が馴染みにくいと感じる意見もあります。
名称変更による社会的影響
糖尿病の名称変更が成功した場合、社会的な意識改革につながる可能性があります。過去には「痴呆」が「認知症」、「精神分裂病」が「統合失調症」に名称変更されることで偏見が軽減され、患者の生活環境が改善された例があります。
糖尿病患者へのポジティブな影響
- 偏見の軽減による心理的負担の軽減
- 社会的理解の向上
- 病状を隠さず治療に取り組む環境の整備
社会全体への影響
糖尿病患者が適切な治療を受けることで、重症化を防ぎ、医療費や社会保障の負担を軽減する効果も期待されています。
糖尿病はどのように新名称に変わるのか?
名称変更が正式に実現するためには、行政手続きや関連文書の改訂が必要です。そのため、最終決定までには時間がかかる見込みです。現在、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、1~2年をかけて患者や医療従事者からの意見を集め、議論を進めています。糖尿病の名称変更の議論は、単なる呼称の変更にとどまらず、患者の生活の質向上や社会全体の意識改革を目指す重要なステップとなります。今後の動向を注視し、正しい知識を広めていくことが求められています。
「ダイアベティス」という新名称を通じて、患者も医療者も社会全体も、より前向きな一歩を踏み出せる未来を目指して。
札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック
院長 小野渉