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若年で糖尿病と診断されたら?「MODY」というもうひとつの可能性

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。糖尿病というと、多くの方は中高年に発症し、肥満や生活習慣が影響する2型糖尿病を思い浮かべるかもしれません。しかし実際には、若年で発症し、太っていない、さらに家族にも同じような糖尿病の人がいるというケースが存在します。その場合、単に2型糖尿病として処理されるだけではなく、「MODY(モディ)」という全く異なるメカニズムをもった糖尿病の可能性があるのです。MODYとは「Maturity-Onset Diabetes of the Young」の略で、直訳すると「若年発症成人型糖尿病」。聞き慣れない名前かもしれませんが、欧米では糖尿病全体の1~3%を占め、日本でもその存在が徐々に認識され始めています。


MODYの原因と代表的なタイプ

MODYの大きな特徴は、インスリンを作る膵臓のβ細胞の機能に直接関係する遺伝子異常が原因で起こる糖尿病であることです。原因遺伝子は常染色体優性遺伝形式をとり、親がMODYであれば50%の確率で子どもに遺伝します。代表的なタイプには、MODY2(GCK遺伝子異常)やMODY3(HNF1A遺伝子異常)があり、これらは日本でも比較的多く見つかっています。MODY2では血糖値がやや高い状態が生涯続きますが、ほとんど合併症を起こさず、薬を必要としないこともあります。一方でMODY3は進行性で、放置すると糖尿病の合併症につながることもありますが、スルホニル尿素薬(SU薬)という種類の内服薬が非常に効果的で、インスリンを使わずに血糖を下げられるケースが多くあります。

MODY: one of the most easily missed causes of diabetes


MODYを疑うべきサインと検査のポイント

MODYを見つけ出すヒントとなるのは、以下のような条件が揃ったときです。まず、25歳以下で糖尿病と診断されたこと、太っていないのに血糖が高い1型糖尿病によく見られる自己免疫抗体(GAD抗体やIA-2抗体など)が陰性である、そして**家族に若年発症の糖尿病が複数人いる(親子三代にわたることも)**などが挙げられます。また、C-ペプチドという検査で、ある程度インスリンが分泌されていることも判断材料となります。こうした条件に当てはまる場合、MODYを疑って遺伝子検査を受けることで、初めて正しい診断にたどり着ける可能性があります。


誤診リスクとMODYが持つ臨床的意義

近年の研究では、長年1型や2型糖尿病と診断されていた患者さんの中にも、実はMODYだったという事例が少なくないことがわかってきました。ある海外の研究では、1型糖尿病と診断されて10年以上経過した患者のうち、約8%が実はMODYだったという報告もあります。これは非常に重要な事実で、診断が誤っていれば、必要のないインスリン治療が続けられていた可能性もあるのです。正確な診断によって、内服薬への切り替えが可能になったり、合併症のリスクが再評価されたりと、治療戦略が大きく変わる可能性があります。さらに、MODYは遺伝性疾患であるため、家族への影響や今後の妊娠・出産を考える上でも、正確な情報が得られるという点で遺伝カウンセリングの観点からも重要です。


診断と治療の進歩—希望はある

現在、MODYに関係する遺伝子は14種類以上が知られており、それぞれが異なる合併症や予後を持っています。たとえばMODY5(HNF1B遺伝子異常)は、腎臓の発育異常を伴うことが多く、糖尿病に加えて腎不全に進展する例もあります。またMODY1(HNF4A)、MODY4(PDX1)など、より稀なタイプも報告されており、診断にはパネル遺伝子解析と呼ばれる手法が用いられます。一般的には、若年発症・非肥満・家族歴・自己抗体陰性・インスリン分泌あり、という複数の条件を満たした場合、保険適応での遺伝子検査も可能です。遺伝子検査は一見ハードルが高そうに思えますが、正確な診断と最適な治療法を導くためには、将来の安心のための一歩ともいえるでしょう。


まとめ:もし「MODYかもしれない」と思ったら

若年で糖尿病を発症し、太っていない、家族歴がある場合には、2型糖尿病や1型糖尿病ではなく、MODYという新しい可能性を考慮すべきです。日本でもようやくこの疾患概念が一般医療現場でも注目され始めており、医師の側も正しく見抜くための視点が求められています。「若くして糖尿病、だけど太っていないし家族にも似たような人がいる…」そんな方はぜひ、医師に『MODYの可能性はありますか?』と一言伝えてみてください。 診断が変わるだけで、あなたの人生の選択肢が大きく広がるかもしれません。当院では遺伝子検査はしておりませんが近隣の総合病院をご紹介することは可能です。ぜひご相談ください。

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック

院長 小野渉

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