札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。今回は「地中海食」の魅力についてお話ししたいと思います。地中海食は、ギリシャやスペイン、イタリアなど地中海沿岸の国々で伝統的に食べられてきた食文化を総称したもので、健康的な食事として世界的に注目されています。近年は数多くの研究によって、その有用性が科学的に検証され、実際に生活習慣病予防や認知症リスク低減など、多くのメリットをもたらすことが報告されています。ぜひ最後までお読みいただき、日々の食事の参考にしてみてください。
地中海食とは?
地中海食とは、ギリシャやスペイン、イタリア、エジプトなどの地中海沿岸諸国で伝統的に食べられてきた食事様式をさします。以下のような特徴を持ち、「健康的な食事」の好例として多くの研究で取り上げられています。
- 果物や野菜を豊富に使用
地中海沿岸の豊かな気候や土壌で育った旬の野菜や果物がふんだんに使われます。 - 乳製品や肉よりも魚介類を多く使用
牛肉・豚肉などの「赤身肉」は控えめで、オリーブオイルや魚、シーフードを中心とする高脂肪食でありながらも、不飽和脂肪酸が豊富に含まれます。 - オリーブオイル、ナッツ、豆類、全粒粉など未精製の穀物をよく使う
日本では比較的取り入れにくいと思われがちですが、主食を玄米や全粒粉入りのパンにするだけでも簡単に始められます。 - 食事と一緒に適量の赤ワインを飲む
地域によっては、**「食事を楽しむ文化」**として食卓に欠かせない存在となっています。赤ワインに含まれるポリフェノールには抗酸化作用があるとされています。
地中海食ピラミッドについて
図1は、アメリカのNPO法人Oldwaysがハーバード大学公衆衛生大学院および世界保健機関(WHO)と協力して1993年に作成した「地中海食ピラミッド」です。三角形の頂点にある食品ほど食べる頻度を少なくし、逆に下部にある食品ほど積極的に摂ることで、全体のバランスを整えようというものです。
図1:地中海食ピラミッド
(アメリカNPO法人Oldwaysが1993年に作成した、地中海食のパターンを食品別に分類した図)
表1:地中海食ピラミッド(日本語訳)
食べる頻度 | 食品 |
月に数回 | 牛肉や豚肉、お菓子やケーキなどのデザート |
週に数回 | 鶏肉、卵、チーズ、ヨーグルト |
毎週少なくとも2回 | 魚、シーフード |
毎日の毎回の食事 | 野菜、果物、全粒粉、オリーブオイル、豆、ナッツ類、マメ科植物、種子、ハーブやスパイス |
毎日 | 運動、誰かと一緒に食事をする |
適度に飲む | ワイン |
毎日飲む | 水 |
このピラミッドでは、赤肉やお菓子などは月に数回程度にとどめ、魚介類や野菜・果物などは積極的に毎日の食卓に取り入れます。加えて、適度な運動や、家族や友人と一緒に楽しみながら食事をする「食文化」そのものが健康効果につながるのだと考えられています。
地中海食に注目が集まった理由
地中海食は、高脂肪食であるにもかかわらず健康に良いとされ、1950〜60年代頃から注目が集まりました。大きなきっかけは、アメリカのミネソタ大学のアンセル・キース博士が行った世界7か国(日本、アメリカ合衆国、フィンランド、オランダ、イタリア、ユーゴスラビア、ギリシャ)での大規模疫学研究です。当時、高脂肪食は血中コレステロール値を上げて動脈硬化のリスクを高めると考えられていました。しかし、地中海沿岸の国々では、脂質の摂取量が多いにもかかわらず、狭心症や心筋梗塞、脳血管障害などの冠動脈疾患が少ないという結果が出たのです。そこで、
- オリーブオイルに豊富に含まれる不飽和脂肪酸
- 赤肉(飽和脂肪酸が多い)の摂取を控える
- 豆類、ナッツ、野菜、果物などの植物性の食品の摂取量が多く、抗酸化作用が強い
といった点が健康維持に貢献しているのではないかと考えられ、近年まで研究が続けられています。
地中海食の健康効果
認知症のリスク低減
地中海食では油脂としてオリーブオイルを使うのが特徴です。特に、化学的な処理を行わない「エキストラバージンオリーブオイル」を日常的に摂取することにより、認知症の発症を防ぐ可能性があると報告されています。
アメリカのテンプル大学の研究では、アルツハイマー病の原因遺伝子を持つマウスにエキストラバージンオリーブオイルを豊富に含むエサを与えて経過を観察したところ、オリーブオイルを摂ったマウスは認知機能が高く、脳内のアミロイド斑が少なかったという結果が得られました。
これは、不要なタンパク質を分解・再利用する「オートファジー」の働きが活性化し、アルツハイマー病の発症の引き金となるアミロイド斑が減少したためと推察されています。動物実験の結果ではありますが、ヒトにおいても同様のメカニズムが働く可能性があります。
寿命を延ばす可能性
地中海食は心疾患や肥満、糖尿病などの生活習慣病を予防するだけでなく、寿命を延ばす効果がある可能性が報告されています。
2014年にアメリカのハーバード大学の研究チームが「Nurse’s Health Study」の参加者約4600人を対象に食事スコアとテロメア長を調べたところ、地中海食に近い食事をしている人ほどテロメアが長いという結果が得られました。テロメア長は染色体の末端を保護しており、長さが寿命に関係すると言われています。
つまり、地中海食で寿命が延びる可能性を、科学的に裏付ける一端として注目されています。
その他の疾患リスクの低減
地中海食を実践している人は、心血管疾患、がん、パーキンソン病、アルツハイマー病などのリスクが低く、死亡率も低いという研究報告があります。また、生活習慣病の要因となる肥満を防ぐ効果も期待できると考えられています。
実践のポイント:地中海食を始める8つのステップ
「地中海食にチャレンジしたいけれど、どこから手をつければ…」という方に向けて、アメリカのNPO法人Oldwaysが推奨する8つのステップをご紹介します。
- 野菜をたくさん食べる
サラダやスープなど、野菜中心の料理を増やしてみましょう。 - 肉に対する考え方を変える
食べるなら牛や豚の赤身肉を控えめに、鶏肉など脂質の少ない肉を少量取り入れます。 - 乳製品はヨーグルトを中心に
チーズも少量ならOK。様々な種類のチーズを少しずつ楽しむのも◎。 - 魚介類を週に2回は食べる
新鮮な魚でアクアパッツァや刺身、焼き魚など、調理法を工夫してみましょう。 - 週に1度は夕食を菜食メニューに
野菜、豆類、全粒穀物のみで作るヘルシーメニューに挑戦。 - エクストラバージンオリーブオイルなど質の良い油を使う
サラダのドレッシングや炒め物など、オリーブオイルで代用してみましょう。 - 全粒粉や大麦・オーツ麦などの食物繊維が豊富な穀類を主食に取り入れる
白米の代わりに玄米・五穀米、白いパンの代わりに全粒粉パンなどがおすすめ。 - スイーツは特別な日に。普段のデザートは果物が基本
糖分の多いお菓子は控え、代わりに新鮮なフルーツで楽しみましょう。
まとめ
- 地中海食は、果物や野菜・豆類・ナッツなどの植物性食品を中心とし、魚介類やオリーブオイルを積極的に取り入れる食事様式
- 適度な赤ワインの摂取や、ハーブ・スパイスの活用など、地域性や文化的背景に支えられた伝統的なスタイルでもある
- 多数の研究で生活習慣病(心疾患、肥満、糖尿病など)のリスク低減、認知症予防、寿命延長につながる可能性が示唆されている
日本の食文化にそのまま置き換えることは難しいかもしれませんが、次のように取り入れるだけでも十分に効果が期待できそうです。
- いつもの調理油をオリーブオイルに変えてみる
- 魚料理や野菜料理を増やし、赤肉は控えめにする
- 精白穀物を「玄米や全粒粉」に一部置き換えてみる
- 塩分を控え、ハーブやスパイスで風味をプラスする
「地中海食」という呼び名や華やかなイメージにとらわれすぎず、“主役は野菜や豆、ナッツ、オリーブオイル” そして “肉やスイーツは少なめ” という大まかな考え方から始めてみてはいかがでしょうか。まずはできるところから、小さな一歩を踏み出してみましょう。当院では糖尿病の方を対象とした肥満外来や管理栄養士による栄養指導を行っております。興味のある方はぜひご来院ください。
【参考文献・参照サイト】
- Oldways: MEDITERRANEAN DIET (https://oldwayspt.org/traditional-diets/mediterranean-diet)
- Aridi YS, et al.: Nutrients 2017; 9: 674.
- Tosti V, et al.: J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2018; 73: 318–26.
- Franquesa M, et al.: Nutrients 2019; 11: 655.
最後にヘルシーな地中海色のレシピを紹介しようと思います。ぜひ試してみてくださいね。
- キヌアとトマトの地中海風サラダ
ポイント
- キヌアはタンパク質と食物繊維が豊富でグルテンフリー。
- シンプルな食材で作れるため、忙しい昼食にもぴったり。
材料(2人分)
- キヌア:100g
- トマト:1個(中〜大サイズ)
- きゅうり:1/2本
- 玉ねぎ:1/4個
- オリーブオイル:大さじ1
- レモン汁:大さじ1
- 塩・こしょう:適量
- (お好みで)オリーブ、フェタチーズ、パセリなど
作り方
- キヌアを軽くすすいだ後、パッケージ記載の方法(通常はキヌア:水=1:2程度)で茹でる。茹で上がったら水気を切って冷ます。
- トマト、きゅうり、玉ねぎは食べやすい大きさにカットする。
- 大きめのボウルに(1)のキヌアと(2)を入れる。
- オリーブオイル・レモン汁・塩・こしょうを加え、全体を和える。
- お好みでオリーブやフェタチーズ、刻んだパセリをトッピングして完成。
- サバのオーブン焼き 〜レモンハーブ風味〜
ポイント
- 青魚(サバ)は良質なオメガ3系脂肪酸が豊富。
- オリーブオイルとハーブで香り豊かに仕上げるのが地中海風。
材料(2人分)
- サバ切り身:2切れ
- レモン(輪切り):1/2個分
- 塩・こしょう:適量
- オリーブオイル:大さじ1
- お好みのハーブ(タイムやローズマリーなど):適量
作り方
- オーブンを200℃に予熱する。
- サバに塩・こしょうを振って下味をつける。
- オリーブオイルを薄く塗った耐熱皿にサバを並べ、上にハーブとレモンの輪切りをのせる。
- オリーブオイルを全体にかけ、オーブンで15〜20分焼く(焼き色がつき、中心まで火が通ればOK)。
- 皿に盛り付けて出来上がり。付け合わせにグリル野菜やサラダを添えると栄養バランス◎。
- 野菜たっぷりラタトゥイユ
ポイント
- トマト、ナス、ズッキーニ、パプリカ等を使ったフランス南部・地中海沿岸の郷土料理。
- たくさんの野菜を一度に摂取でき、冷蔵保存も可能なので作り置きにも便利。
材料(作りやすい分量)
- ナス:2本
- ズッキーニ:1本
- パプリカ(赤・黄など):1個
- 玉ねぎ:1/2個
- トマト缶(カット):1缶(400g)
- にんにく:1かけ
- オリーブオイル:大さじ1〜2
- 塩・こしょう:適量
- バジルやオレガノなどのドライハーブ:適量
作り方
- 野菜はすべて食べやすい大きさにカット。にんにくはみじん切りに。
- 鍋にオリーブオイルを熱し、にんにくを香りが立つまで炒める。
- 玉ねぎ、ナス、ズッキーニ、パプリカの順に加え、軽く塩をして全体がしんなりするまで炒める。
- トマト缶とドライハーブを加え、蓋をして弱火〜中火で20分ほど煮る。
- 塩・こしょうで味を調え完成。パセリやバジルの生葉を飾るとさらに風味UP。
食べ方のコツ
- ラタトゥイユを全粒粉パンと一緒に食べれば、食物繊維もしっかり摂れます。
- 余った分は冷やして翌日パスタソースやオムレツの具にしても。
今回はこの辺で、また次のブログでお会いしましょう
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院長 小野渉