札幌駅・大通駅近くの小野百合内科クリニックです。
お酒をあまり飲まないのに、健康診断で脂肪肝と言われました。放っておいても大丈夫でしょうか。先日、当院の外来でこのようなご相談を受けました。脂肪肝はお酒の飲みすぎによるものだというイメージが強く、お酒をほとんど飲まない方が自分には関係ないと考えてしまうことも少なくありません。しかし現代において増えている脂肪肝の多くはアルコールではなく、日々の食事や運動不足、そして体重の増加が深く関わっています。今回は、肥満と脂肪肝の医学的な関係や最新の診断・治療について糖尿病内科医の目線から分かりやすく解説します
目次
肥満と脂肪肝(MASLD)の密接な発症メカニズム
これまでお酒を原因としない脂肪肝はNAFLDと呼ばれていましたが、現在はMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)という名称が用いられています。これは単なる名前の変更ではなく、肝臓の脂肪化に加えて肥満、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧といった代謝や心血管のリスク因子を伴う病気であることを明確にした疾患概念です。体重が増えてお腹の内臓脂肪が増加すると、インスリン抵抗性という血糖値を下げるホルモンが効きにくくなる状態が生じます。その結果、脂肪組織から血液中に遊離脂肪酸という脂質の成分が多く放出され、それが肝臓に流れ込んで蓄積することで脂肪肝が形成されます。このように、MASLDは肝臓だけでなく全身の代謝異常と深く結びついています。
脂肪肝における進行リスクとFIB-4による肝線維化スクリーニング
健康診断などで脂肪肝を指摘された方のすべてがすぐに重症化するわけではありません。過度な心配は不要ですが、一部の患者様では肝臓に炎症が起きるMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)へ移行し、組織が硬くなる肝線維化を経て、時間をかけて肝硬変や肝がんへ進行する可能性があることも事実です。そこで重要となるのが、進行した肝線維化が存在する可能性をあらかじめ評価するスクリーニングです。日常診療では、一般的な血液検査項目から算出できるFIB-4 indexという指標を活用します。この指標は線維化の程度を直接測定するものではなく、また年齢の影響も受けるため、高値だからといって直ちに確定診断となるわけではありません。当院ではFIB-4 indexの結果や年齢、糖尿病の有無などを総合的に考慮し、必要に応じてフィブロスキャンなどの超音波を用いた精密検査や専門医への紹介を検討します。
脂肪肝改善に必要とされる具体的な減量目標
肥満を伴う脂肪肝の治療において、基本となるのは食事療法と運動療法による着実な体重管理です。減量の目安としては、現在の体重から5%以上の減量で肝脂肪の減少が期待され、7%から10%以上の減量では炎症や線維化の改善も期待しやすくなります。生活習慣改善の効果を検証したVilar-Gomezらの研究では、体重を10%以上減量できた患者様において、約90%でNASHの消失、約45%で肝線維化の改善が認められ、減量幅が大きいほど改善率が高かったと報告されています。ただし、この結果は観察研究に基づくものであり、全員に同様の効果が得られるとは限りません。短期間で無理な減量を目指すのではなく、継続できるペースで生活習慣を見直していくことが重要です。
GLP-1受容体作動薬セマグルチドのMASHに対する有効性と位置づけ
食事や運動療法を進める中で、適応を満たす患者様には薬物療法も選択肢となります。GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドを用いたNewsomeらの臨床試験では、プラセボ群でのNASH消失率が17%であったのに対し、セマグルチド群では59%と、肝組織学的に有意なNASH消失が確認されました。一方で、この試験条件下では肝線維化の改善について統計学的な有意差は認められませんでした。なお2026年6月、日本国内においてセマグルチド(製品名:ウゴービ)が、肝硬変を伴わないMASHで一定以上の肝線維化を有する患者様を対象として効能追加の承認を受けました。すべての脂肪肝や軽症のMASLDに使用できるわけではなく、公的に定められた最適使用推進ガイドライン等の条件を満たした患者様に限って慎重に処方されます。
チルゼパチドの最新臨床試験成績と総合的な治療アプローチ
GLP-1に加えてGIPというホルモンにも作用するチルゼパチド(製品名:マンジャロ)についても、脂肪肝に対する臨床研究が進められています。MASH患者様を対象としたSYNERGY-NASH試験では、MASHの消失率がプラセボ群で10%だったのに対し、チルゼパチド5mg群で44%、10mg群で56%、15mg群で62%と報告されました。さらに、線維化が1段階以上改善しMASHが悪化しなかった割合についてもプラセボ群より高い結果が示されています。ただし、この研究は有効性や安全性を探索するPhase 2試験であり、長期的な有効性や安全性については今後のさらなる検証が必要です。また、これらのお薬は単独で病気を解決する万能薬ではありません。薬物療法だけに頼るのではなく、食事・運動や他の生活習慣病の管理と組み合わせて総合的に治療することが重要です。

患者様からよくあるQ&A
Q. 脂肪肝を指摘されたらどんな検査が必要ですか?
A. 血液検査と腹部超音波検査を行い、肝機能障害や脂肪沈着の程度を確認します。血液検査データからFIB-4 indexを算出し、年齢なども考慮しながら進行した肝線維化の可能性をスクリーニングします。その結果や患者背景を踏まえ、必要に応じて肝臓の硬さを評価するフィブロスキャンなどの追加検査や専門医への紹介を検討します。
Q. 自覚症状がなくても治療は必要ですか?
A. 肝臓は症状が現れにくい臓器です。多くの脂肪肝は急速に進行するわけではありませんが、一部では自覚症状がないままMASHや線維化へと進む場合があります。自覚症状がない初期の段階から線維化のリスクを適切に評価し、生活習慣の改善に取り組むことが将来の重症化予防につながります。
Q. どのくらい減量すればよいですか?
A. 体重の5%以上の減量で肝脂肪の減少が期待され、7%から10%以上の減量で炎症や線維化の改善も期待しやすくなります。短期間で無理に体重を落とすのではなく、日々の生活の中で無理なく継続できる食事や運動のペースを確立することが大切です。
Q. 脂肪肝があるとGLP-1の薬を使えますか?
A. 脂肪肝がある方全員が使えるわけではありません。2026年現在、日本ではセマグルチド(ウゴービ)が一定の条件を満たすMASHに対して保険適応を有しています。一方、チルゼパチドについてはMASHを対象とした臨床試験が進められている段階です。実際の治療にあたっては、肝線維化の程度、肝硬変の有無、合併症などを総合的に評価し、医師が適応を慎重に判断します。
まとめ
肥満は脂肪肝(MASLD)を引き起こす重要なリスク因子ですが、治療の基本は日々の生活習慣改善と継続的な減量です。すべての脂肪肝が急速に悪化するわけではありませんが、一部で進行するリスクがあるため、血液検査等で線維化リスクを適切に評価することが重要となります。また、適応条件を満たす患者様にはセマグルチドなどの薬物療法も選択肢となります。健診で脂肪肝を指摘された方は早期の適切な評価をお勧めします。
札幌駅・大通駅近くの小野百合内科クリニック 院長 小野渉
当院は札幌駅・大通駅からアクセスしやすい場所に位置し、糖尿病外来、生活習慣病外来、肥満外来、管理栄養士による栄養指導を行っております。健診で脂肪肝を指摘された方、肥満や糖尿病を伴う脂肪肝がある方、体重管理が難しい方はぜひお気軽にご相談ください。
引用論文一覧


