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孤独は「15本のタバコ」よりも体に悪い?心疾患や認知症を招くリスクと、医師が教える孤独対策

現代社会において、一人で過ごす時間が増えることは珍しいことではありません。しかし、単なる寂しさという感情の問題を超えて、孤独が医学的に私たちの寿命や健康に深刻な悪影響を及ぼすことが近年の研究で明らかになってきました。タバコや肥満と同じくらい、あるいはそれ以上にリスクが高いとされる孤独。この記事では、なぜ孤独が体を蝕むのか、そして私たちが今日からできる対策について、信頼性の高い最新の医学論文をもとに、内科医の視点から分かりやすく解説していきます。

孤独はタバコを1日15本吸うのと同じくらい死亡率を高める

孤独が健康に悪いと聞いても、せいぜい気持ちの問題だろうと軽く考えてしまうかもしれません。しかし、2015年に発表されたHolt-Lunstad氏らの研究によれば、孤独は私たちの寿命を縮める強力な要因であることが示されています。340万人以上を対象としたデータを解析した結果、社会的なつながりが少ない状態は死亡リスクを29パーセントも増加させることが分かりました。さらに驚くべきことに、このリスクの高さは肥満よりも高く、毎日タバコを15本吸い続けることや、アルコール依存症であることと同等の危険性があると結論付けられています。孤独は静かに、しかし確実に私たちの生命力を削いでいくのです。

さみしい男性」要注意、孤独は健康リスク : 読売新聞

心臓や血管に炎症を引き起こし心筋梗塞や脳卒中のリスクが増大する

孤独が体に悪い影響を与える具体的なメカニズムの一つとして、心血管系へのダメージが挙げられます。Valtorta氏らの研究では、孤独や社会的孤立の状態にある人は、そうでない人に比べて狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患のリスクが29パーセント、脳卒中のリスクが32パーセントも高いことが明らかになりました。私の日々の診療でも、この論文のデータを裏付けるようなケースによく遭遇します。それまで血圧も血糖値も安定していた患者さんが、配偶者を亡くされた途端に数値が急激に悪化することがあります。食事の内容が変わったわけでもないのに、です。「会話がなくなって、何を食べても味がしない」と寂しそうに語るその姿を見ると、孤独というストレスがいかに直接的に心臓や血管に負担をかけているかを痛感させられます。これは決して気持ちの問題だけで片付けられるものではありません。孤独を感じると無意識のうちに強いストレスを感じ、体内で炎症反応が慢性的に続きます。この炎症が血管を傷つけ、動脈硬化を進行させることで、命に関わる病気を引き起こしやすくなるのです。

Overview of the Vascular System | Johns Hopkins Medicine

遺伝子レベルで免疫バランスが崩れウイルスに対する抵抗力が弱まる

私たちの体は、孤独を感じると遺伝子の働き方さえも変えてしまうことが分かっています。2007年のCole氏らの研究によると、孤独を感じている人の血液中の白血球を調べたところ、炎症を引き起こす遺伝子のスイッチが入りやすくなっている一方で、ウイルスと戦うための抗体を作る遺伝子の働きが弱まっていることが確認されました。つまり、孤独な状態にある人の体は、常に目に見えない敵と戦っているような過度な緊張状態にあり、その結果として免疫のバランスが崩れ、風邪や感染症にかかりやすく、また治りにくい体質になってしまっている可能性があるのです。

What's the difference between bacteria and viruses? - Institute for Molecular Bioscience - University of Queensland

社会的な刺激の減少は脳の機能を低下させ認知症のリスクを高める

高齢化が進む日本において、認知症の予防は喫緊の課題ですが、ここでも孤独は大きなリスク要因となります。2018年のPenninkilampi氏らの研究を含む多くのデータが、孤独感が認知症の発症リスクを約26パーセント高めることを示しています。人との会話は、言葉を選んだり相手の表情を読み取ったりと、脳にとって非常に高度で良い刺激となります。逆に、社会的な交流が断たれてしまうと、脳への刺激が極端に減少し、認知機能の低下を早めてしまうのです。脳の健康を保つためにも、人とのつながりは欠かせない要素と言えるでしょう。

挨拶や趣味の集まりなど小さなつながりを持つことが健康への特効薬

では、健康を守るためにはどうすればよいのでしょうか。決して無理をして多くの友達を作ったり、毎日パーティーに参加したりする必要はありません。医学的に重要視されているのは、社会的な孤立を防ぐための小さなつながりです。近所の人とすれ違いざまに挨拶を交わすこと、地域の趣味のサークルやボランティアに参加すること、あるいは行きつけのお店で店員と言葉を交わすことでも十分な効果があります。自分が必要とされている、あるいは社会の一部であると感じられる瞬間を持つことが、心身の緊張を解きほぐし、健康を守る最強の薬となるのです。

患者様からよくあるQ&A

Q. 一人暮らしをしていると、必ず病気になりやすいのでしょうか。

A. 必ずしもそうではありません。重要なのは物理的に一人であるかどうかよりも、主観的に孤独を感じているか、そして社会との接点があるかどうかです。一人暮らしであっても、友人や家族と定期的に連絡を取っていたり、趣味の活動で外出したりしていれば、リスクは大幅に軽減されます。

Q. 人付き合いが苦手な性格なのですが、無理に交流しなければなりませんか。

A. 無理をする必要はありません。ストレスを感じるほどの過度な交流は逆効果になることもあります。大切なのは、自分が心地よいと感じる距離感で社会と関わることです。例えば、オンライン上のコミュニティに参加したり、ペットを飼って散歩中に他の飼い主と挨拶したりするだけでも、孤独感を和らげる効果があります。

Q. SNSでの交流は、孤独の解消に役立ちますか。

A. 使い方によります。SNSを通じて共通の趣味を持つ人と交流することはプラスに働きますが、他人の充実した生活を見て劣等感を抱いたり、ただ眺めているだけだったりする場合は、かえって孤独感を強めるという研究結果もあります。リアルな交流の補助として、能動的に活用することをお勧めします。

まとめ

孤独は、喫煙や運動不足と同じように、私たちが意識して管理すべき健康リスクの一つです。今回ご紹介したように、孤独は心臓病や認知症、免疫機能の低下など、全身の健康に深く関わっています。しかし、これは裏を返せば、ほんの少しの勇気を出して誰かと関わることで、健康リスクを大きく下げられるということでもあります。今日、誰かに一言挨拶をすることから、あなたの健康づくりを始めてみてはいかがでしょうか。

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック 院長 小野渉

参考文献

  1. Holt-Lunstad J, et al. Loneliness and social isolation as risk factors for mortality: a meta-analytic review. Perspect Psychol Sci. 2015;10(2):227-237.

  2. Valtorta NK, et al. Loneliness and social isolation as risk factors for coronary heart disease and stroke: systematic review and meta-analysis of longitudinal observational studies. Heart. 2016;102(13):1009-1016.

  3. Cole SW, et al. Social regulation of gene expression in human leukocytes. Genome Biol. 2007;8(9):R189.

  4. Penninkilampi R, et al. Social isolation, loneliness and risk of incident dementia: A systematic review and meta-analysis. J Alzheimers Dis. 2018;66(4):1619-1640.

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