札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。
最近、日々の診療において患者様から「ずっと冷房の効いた部屋にいたのに、急にめまいがして倒れそうになった」「あまり汗をかいていないから、水分は少ししか飲んでいない」というお話をよく耳にします。実は、熱中症は炎天下の屋外だけで起こるものではありません。多くの方が、室内なら安全だという誤解や、のどが渇いていないからまだ大丈夫という自己判断によって、知らないうちに危険な状態に陥っています。実際に起きている失敗例として、電気代を気にしてエアコンの使用を控えたり、トイレが近くなることを嫌がって水分の摂取を我慢したりした結果、救急車で運ばれてしまうケースが後を絶ちません。今回は、皆様が気づきにくい熱中症の真実と、ご自宅で命を守るための具体的な予防策について内科医の目線から詳しく解説してまいります。

目次
室内で多発する熱中症の意外な実態
熱中症と聞くと、強い日差しが照りつける真夏の屋外や、激しいスポーツをしている最中に起こるものだと想像される方が多いかもしれません。しかし、実際のデータを見てみますと、令和7年における全国の熱中症による救急搬送者数は10万510人という過去最多の記録となっており、その中で最も発生件数が多い場所は屋外ではなく、私たちが安心しきっているはずの住居内であることがわかっています。発生場所の割合を見ますと、住居が全体の38.1%を占めており、家の中で過ごしている時こそ警戒が必要な状況にあります。多くの方は、まだそれほど暑くないという感覚や、直射日光を浴びていないから大丈夫という思い込みによって、エアコンの電源を入れるのをためらってしまいます。その結果、気密性の高い住宅の中に熱がこもり、知らず知らずのうちに体温が上昇して熱中症を引き起こしてしまうのです。

高齢者における熱中症リスクの増加
特に気をつけなければならないのが、年齢を重ねることに伴う体の変化と熱中症リスクの関係性です。救急搬送された方のうち、約6割にあたる57.1%が65歳以上の高齢者で占められています。人間の体は加齢とともに、暑さやのどの渇きを感じる感覚のセンサーが徐々に鈍くなっていく傾向があります。そのため、ご本人がのどが渇いていないと仰っていても、体内ではすでに水分が不足し、危険な脱水状態に足を踏み入れていることが少なくありません。さらに、高齢になると体内に蓄えておける水分の量そのものが減少し、汗をかいて体温を下げる機能も低下してしまうため、ほんの少しの環境変化であっても一気に重症化してしまうリスクを抱えています。若い頃はこれくらいの暑さでも平気だったという過去の経験に基づく自信が、時として取り返しのつかない事態を招いてしまうことがあるのです。
命を守るためのこまめな水分と塩分補給
熱中症を防ぐための最も基本かつ極めて重要な対策が、日々の適切な水分と塩分の補給です。先ほども申し上げた通り、のどの渇きを感じた時点ではすでに体内の水分不足が進行している状態ですので、渇きを感じる前に意識して水分をとることが重要になります。起床した直後や毎回の食事の際、入浴の前後、そして就寝前など、あらかじめ時間を決めてコップ一杯程度の水をこまめに飲む習慣をつけていただくことをお勧めします。また、人間が汗をかくときには水分と一緒に体内の塩分やミネラルも失われていきますので、大量に汗をかいた日や長時間の作業を行った後には、水だけを大量に飲むのではなく、経口補水液や少量の塩分を含んだ飲み物を摂取して体内の電解質バランスを保つことが求められます。ただし、一度に大量の水を飲むと胃腸に負担をかけてしまうため、少しずつゆっくりと飲むように心がけてください。

エアコンを活用した適切な室内環境の調整
室内での熱中症を予防するためには、エアコンや扇風機を正しく活用して、ご自身が生活する空間の温度と湿度を快適な状態に保つことが不可欠です。屋内で熱中症によって亡くなられた方のうち、約85%がエアコンを使用していなかったという報告もあり、冷房機器はもはやぜいたく品ではなく、命綱としての役割を担っています。電気代がもったいないというお気持ちや、冷たい風が直接体に当たるのが苦手だというご意見もよく耳にしますが、設定温度を無理に低くしすぎる必要はなく、室温が28度以下、湿度が70%以下になるように調整していただくのがひとつの目安となります。風向きを天井に向けたり、サーキュレーターを併用して室内の空気を循環させたりすることで、冷えすぎを防ぎながら快適な環境を作り出すことができますので、昼夜を問わず適切な温度管理を行ってください。
持病がある方のための安全な熱中症対策
高血圧や心臓病、腎臓病、糖尿病などの持病をお持ちの方、あるいは日頃から複数のお薬を内服されている方は、健康な方とは少し異なる視点での熱中症対策が必要になってまいります。例えば、血圧を下げるお薬や心不全の治療に使われる利尿薬などを服用している場合、尿として体内の水分が外に排出されやすくなるため、普段通りに生活していても脱水状態に陥りやすい傾向があります。しかしだからといって、熱中症予防のためにとご自身の判断で急に水分や塩分を大量に摂取してしまうと、かえって心臓や腎臓に大きな負担をかけてしまい、持病を悪化させてしまう危険性が伴います。水分の適切な摂取量や塩分制限の度合い、そして夏の暑い時期におけるお薬の調整方法については、患者様お一人おひとりのご状態によって全く異なりますので、必ずかかりつけの医師に事前にご相談いただき、安全な予防計画を立てるようにしてください。

熱中症が疑われる場合の迅速な応急処置
万が一、ご自身やご家族がめまい、立ちくらみ、頭痛、強いだるさといった熱中症の初期症状を感じた場合には、決して無理をせず、ただちに涼しい場所へ移動して休息をとることが最優先となります。衣服のボタンやベルトを緩めて風通しを良くし、首の回りや脇の下、太ももの付け根など、太い血管が通っている部分を保冷剤や冷たいタオルで集中的に冷やすことで、効率よく体温を下げることができます。ご自身でしっかりと飲み物を飲み込める状態であれば、経口補水液などで水分と塩分を補給していただき、しばらく安静にして様子を観察してください。もし、呼びかけに対する反応が鈍い、自力で水分を飲み込むことができない、あるいはけいれんを起こしているといった重篤なサインが見られる場合には、一刻を争う事態ですので、ためらうことなくすぐに119番に電話をして救急車を要請してください。
患者様からよくあるQ&A
Q. 普段からお茶やコーヒーを飲んでいるのですが、熱中症の予防になりますか?
A. 緑茶やコーヒーに含まれるカフェインには利尿作用があるため、飲んだ量以上の水分が尿として排出されてしまう可能性があります。日頃から飲み慣れている方であれば極端に心配する必要はありませんが、炎天下での活動後や熱中症の症状が出かかっている時の水分補給としては適していません。麦茶や水、経口補水液などを選ぶようにしてください。
Q. 経口補水液とスポーツドリンクはどう使い分ければよいでしょうか?
A. スポーツドリンクは日常的に水代わりに飲むと糖分の摂りすぎにつながる恐れがあるため、大量に汗をかいた時のエネルギー補給に向いています。一方、経口補水液は水分と電解質が体液に近いバランスで配合されており、素早く体に吸収されるのが特徴です。熱中症が疑われる場合や、脱水症状が心配な時には、経口補水液をお勧めいたします。
Q. エアコンを一晩中つけっぱなしにすると体調を崩しそうで心配です。
A. 夜間も室温が高い状態が続くと、寝ている間に大量の汗をかいて熱中症になる危険性があります。エアコンの風が直接体に当たらないように風向きを上向きに調整し、薄手の長袖パジャマやタオルケットを活用して体を冷やしすぎない工夫をしながら、朝まで適切な室温を維持していただくのが安全な方法です。
まとめ
熱中症は炎天下の屋外だけでなく、ご自宅の室内でも頻繁に発生する危険な疾患です。特にご高齢の方や持病をお持ちの方は、のどの渇きや暑さを感じにくく、知らず知らずのうちに重症化してしまう傾向があります。エアコンをためらわずに使用して室温を管理し、のどが渇く前にこまめな水分と塩分の補給を心がけることが命を守る鍵となります。日々の意識づけと適切な環境づくりを通して、厳しい暑さを安全に乗り切りましょう。
札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック 院長 小野渉 当院では糖尿病外来、生活習慣病外来、糖尿病患者を対象とした肥満外来、管理栄養士による栄養指導を行っております。 札幌市、札幌駅近郊で糖尿病、生活習慣病、肥満にお悩みの方はぜひご来院ください。
引用文献一覧


