札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。驚異的な減量効果で世界中から注目を集めている糖尿病および肥満症治療薬のマンジャロ(ゼップバウンド)ですが、SNSなどで髪が抜けるという副作用の報告を目にして不安を感じている方も多いのではないでしょうか。せっかく体重が減って健康になっても、髪のボリュームが失われてしまっては素直に喜べないものです。実はこの脱毛という現象には、薬の成分そのものだけでなく、急激な体重減少に伴う体の生理的な反応が深く関係しています。この記事では、最新の医学論文に基づいて、マンジャロによる脱毛の真実とそのメカニズム、そして効果的な予防法について糖尿病内科医の視点から詳しく解説します。

目次
大規模な臨床試験で確認された約6パーセントという脱毛の発生率
マンジャロが肥満症治療薬として承認される根拠となった大規模な臨床試験SURMOUNT1試験において、副作用としての脱毛が明確に報告されています。この研究では、糖尿病のない肥満患者2539名を対象に調査を行いましたが、マンジャロを投与されたグループでは約5パーセントから6パーセントの方に脱毛の症状が見られました。一方で、薬効のないプラセボ(偽薬)を投与されたグループでの発生率は約1パーセントにとどまっており、マンジャロを使用することで脱毛のリスクが統計的にも有意に高まることが医学的に確認されています。ただし、これは裏を返せば9割以上の方には現れない副作用であり、発症したとしても多くの場合は軽度で、投与の中止が必要になるほど重篤なケースは稀であることも分かっています。
薬の毒性ではなく急激なダイエットが引き起こす休止期脱毛という現象
なぜマンジャロを使用すると髪が抜けるのでしょうか。その主な原因は、薬が直接毛根を攻撃しているわけではなく、急激な体重減少による休止期脱毛である可能性が高いと考えられています。マンジャロの強力な食欲抑制効果によって短期間で大幅に摂取カロリーが減ると、体は一種の飢餓状態にあると認識します。すると人間の体は生命維持を最優先するため、心臓や脳などの重要な臓器へ優先的に栄養を回し、生命維持に直接関わらない髪の毛や爪への栄養供給を後回しにします。その結果、成長期にある髪の毛が一斉に休止期へと移行してしまい、数ヶ月後にまとまって抜け落ちるという現象が起こるのです。
痩せる効果が高い薬剤ほど脱毛のリスクも高くなるという相関関係
GLP1受容体作動薬と脱毛の関連を調査したメタアナリシス(複数の研究を統合した解析)によると、体重減少率が大きい薬剤ほど、脱毛の報告頻度が高くなるという相関関係が示唆されています。マンジャロは、既存の薬剤であるオゼンピックやウゴービ(セマグルチド)と比較しても、さらに強力な減量効果を持つことが分かっています。つまり、マンジャロだから髪が抜けるというよりは、マンジャロが最強クラスに痩せる薬であるがゆえに、体への代謝ストレスも大きくなり、結果として脱毛が起きやすくなっていると言えます。これは薬の副作用というよりも、激しいダイエットをした際に起こる自然な身体反応の一部と捉えることができます。
体重が安定すれば自然に回復することがほとんどであるため過度な心配は不要
休止期脱毛の最大の特徴は、あくまで一時的な現象であり、可逆的であるという点です。体が新しい体重環境に慣れ、栄養状態が安定してくれば、ヘアサイクルは正常に戻り、再び新しい髪が生えてきます。多くのケースでは、体重の減少が緩やかになる維持期に入ってから数ヶ月から半年程度で自然に回復していきます。したがって、抜け毛が増えたからといってパニックになって自己判断で治療を中断してしまうのではなく、まずは落ち着いて様子を見ることが大切です。ただし、円形脱毛症のように特定の部分だけが抜ける場合や、頭皮に炎症がある場合は別の原因も考えられますので、その際は皮膚科医への相談が必要です。
髪を守るために減量中こそ意識すべきタンパク質や亜鉛などの栄養摂取
脱毛のリスクを最小限に抑えるためには、ただ食べる量を減らすのではなく、髪の材料となる栄養素を意識的に摂取することが不可欠です。特に髪の主成分であるケラチンを作るための良質なタンパク質、そして細胞分裂を助ける亜鉛や鉄分、ビタミン類が不足すると、脱毛はより起きやすくなります。マンジャロの使用中は食欲が落ちて肉や魚を食べるのが億劫になりがちですが、プロテインドリンクを活用したり、サプリメントで亜鉛を補ったりすることで、髪へのダメージを軽減できる可能性があります。美しく痩せるためには、カロリーは減らしても栄養は減らさないという工夫が求められます。
まとめ
マンジャロによる脱毛は、多くの場合、体が急激な変化に適応しようとする一時的な反応であり、薬そのものの毒性によるものではありません。確かに5パーセントから6パーセントという確率は無視できませんが、適切な栄養管理を行い、急激すぎる減量を避けることで、ある程度のリスクコントロールは可能です。もし抜け毛が気になり始めたとしても、それは薬がしっかりと効いて体重が落ちている証拠でもあります。過度に恐れることなく、タンパク質やミネラルをしっかり摂りながら、主治医と二人三脚で焦らず治療を続けていきましょう。美しさと健康の両方を手に入れるために、賢く薬と付き合っていくことが大切です。
患者様からよくある質問をまとめてみました(Q&A)
Q1. 抜けた髪は本当に元に戻りますか? A. はい、多くの場合は体重が安定すれば元に戻ります。 マンジャロによる脱毛の多くは休止期脱毛と呼ばれ、毛根が死んでしまったわけではなく、一時的に休んでいる状態です。目標体重に達して体重の減少が緩やかになり、栄養状態が改善されれば、通常は数ヶ月から半年程度で新しい髪が生えてきます。
Q2. 脱毛を防ぐためにできることはありますか? A. タンパク質、亜鉛、鉄分を意識して摂りましょう。 食欲が落ちると、うどんやパンなどの炭水化物だけで食事を済ませてしまいがちですが、これでは髪の栄養が不足します。肉、魚、卵、大豆製品などのタンパク質を毎食少しでも取り入れることが重要です。食事が喉を通らない時は、プロテインや亜鉛のサプリメントを活用するのも有効な手段です。
Q3. 抜け毛がひどい場合、マンジャロを中止した方がいいですか? A. 自己判断で中止せず、必ず主治医に相談してください。 急に薬をやめるとリバウンドのリスクがあり、血糖値の管理にも影響します。抜け毛の程度によっては、薬の量を減らしたり、減量のペースを少し緩めたりすることで改善する場合もあります。また、脱毛の原因が薬ではなく、甲状腺の病気や他の皮膚疾患である可能性もゼロではないため、まずは医師の診察を受けることをお勧めします。
参考文献

