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肥満治療の新たな希望:「トリプルG」受容体作動薬レタトルチド(Retatrutide)の効果と課題

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです、今回は肥満治療の新薬についてです。肥満は単なる体重の増加だけでなく、さまざまな慢性疾患のリスク要因となる深刻な健康問題です。世界的に肥満患者数が増加する中、医療分野ではその治療法に革新が求められています。2023年に発表されたNew England Journal of Medicine(NEJM)の第2相試験結果は、イーライリリー社が開発した「トリプルG」受容体作動薬レタトルチド(Retatrutide)が、肥満治療における画期的な可能性を持つことを示唆しています。本記事では、試験結果の詳細と、それが肥満治療の未来にもたらす影響を深掘りします。

レタトルチドの特性とは?

レタトルチドは、以下の3つの受容体に作用する新しいタイプの薬剤です:

  1. GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)受容体
  2. GLP-1(グルカゴン様ペプチド1)受容体
  3. グルカゴン受容体

これら3つの受容体を同時に活性化することで、体内のエネルギー代謝を多角的に調整し、食欲抑制やエネルギー消費の増加を促進します。特に、これまでのGLP-1単一受容体作動薬やGIP/GLP-1二重受容体作動薬と比較して、さらなる減量効果が期待されています。

試験の概要

この試験は、肥満または過体重(BMI 27以上)の成人338名を対象に実施されました。試験参加者は以下の群にランダムに割り付けられ、週1回、48週間にわたって皮下投与を受けました:

  • レタトルチド:1 mg、4 mg、8 mg、12 mg
  • プラセボ(偽薬)

主要評価項目は「24週後の体重変化率」で、副次評価項目として「48週後の体重変化率」や「減量達成率(5%以上、10%以上、15%以上など)」が設定されました。また、参加者には全員、栄養士や医療専門家による生活指導(食事・運動)が提供されました。

試験結果:驚異的な減量効果

  1. 体重変化率
    24週後の体重変化率は以下のような結果でした:
  • レタトルチド 1 mg:-7.2%
  • レタトルチド 4 mg:-12.9%
  • レタトルチド 8 mg:-17.3%
  • レタトルチド 12 mg:-17.5%
  • プラセボ:-1.6%

さらに、48週後の結果では、12 mg群で平均-24.2%という減量が確認され、減量幅が治療終了時点まで拡大を続けていました。興味深いのは、体重減少が治療終了時点でも「減量のピーク」に達しておらず、さらなる効果が期待される点です。

  1. 減量達成率
    48週後には、以下の減量達成率が報告されました:
  • 5%以上の体重減少
    • レタトルチド 8 mg:100%
    • レタトルチド 12 mg:100%
    • プラセボ:27%
  • 10%以上の体重減少
    • レタトルチド 8 mg:91%
    • レタトルチド 12 mg:93%
    • プラセボ:9%
  • 15%以上の体重減少
    • レタトルチド 8 mg:75%
    • レタトルチド 12 mg:83%
    • プラセボ:2%

また、12 mg群の参加者のうち26%が「30%以上の体重減少」を達成し、これは過去の肥満治療薬の試験結果を大きく上回るものでした。

安全性の評価

試験で観察された有害事象の多くは軽度~中等度であり、次のような症状が報告されました:

  1. 消化器症状
    • 吐き気、下痢、嘔吐、便秘などが主な症状。
    • 用量依存的に発生し、初回投与量を低くすることで一部軽減可能。
  2. 心拍数の増加
    • 用量依存的に増加し、24週でピークを迎えた後に軽減。
  3. 体感過敏症
    • 軽度の皮膚感覚異常が一部で報告されるも、重篤なケースはなし。

なお、深刻な低血糖や治療関連の死亡例は報告されていません。

肥満治療の未来

今回の試験結果は、肥満治療の新たな可能性を示しています。特に、バリャトリック手術(肥満治療手術)と同等またはそれ以上の効果が期待される点で、従来の薬物療法の概念を大きく変える可能性があります。さらに、試験では以下の健康指標に改善が見られました:

  • 血圧の低下
  • 糖代謝の改善(前糖尿病から正常血糖への回復率:72%)
  • 脂質プロファイルの改善LDLコレステロールの低下など)

これらの結果は、レタトルチドが肥満関連の合併症予防にも寄与する可能性を示唆しています。

今後の課題と展望

今回の試験はアメリカ国内で実施され、対象者の人種構成が限定的であるため、結果の汎用性には課題が残ります。また、48週という試験期間では長期的な安全性評価には不十分であり、現在進行中の第3相試験でさらなるデータが求められます。

しかし、レタトルチドが肥満治療の新たな標準を築く可能性は十分にあります。その高い効果と良好な安全性プロファイルは、今後の肥満治療における薬剤選択肢を大きく広げることでしょう。

当院では栄養指導を含めた肥満外来をおこなっておりますのでご興味ある方は是非当院までお越しください

参考文献

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック

院長 小野渉

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