冬になると、決まって「お正月だから少し食べ過ぎちゃったかな」と苦笑いされる患者様が多くいらっしゃいますが、実は食事のせいだけではないかもしれません。先日、ある患者様から「先生、食事量は秋と変えていないのに、どうして冬になるとヘモグロビンA1cの数値がこんなに跳ね上がるんですか?」という切実なご相談を受けました。この方は「冬は寒いから体がエネルギーを消費して、むしろ血糖値は下がると思っていた」と仰っていましたが、実はこれこそが多くの患者様が陥る誤解です。実際には、私たちの体は寒さに反応して、本人の意識とは無関係に血糖値を押し上げる仕組みを持っているのです。

目次
冬に血糖値が上昇するという客観的な事実
多くの研究において、糖尿病患者様の血糖コントロール状態を示すヘモグロビンA1cは、夏よりも冬に高くなる傾向が報告されています。海外の権威ある医学誌であるDiabetes Careに掲載された論文によれば、季節変動によってヘモグロビンA1cが0.3〜0.5%ほど変動することが示されています。これは決して偶然の誤差ではなく、外気温の低下と血糖値の上昇には明確な逆相関の関係があることを意味しています。つまり、あなたがどれだけ節制を心がけていても、環境の変化によって数値が悪化しやすい時期があるという厳しい現実をまずは理解しておく必要があります。
日本人の体質でも冬の数値は悪化する
この季節変動は海外の方に限った話ではありません。日本国内の患者を対象としたJournal of Diabetes Investigationの研究においても、1型および2型糖尿病の両方で、冬にヘモグロビンA1cがピークに達することが確認されています。日本の冬は湿度が低く乾燥しており、さらに地域によっては厳しい寒さが続きます。こうした日本特有の気候条件も、私たちの体の代謝システムに大きな影響を与えています。自分が住んでいる地域の気温が下がれば下がるほど、糖尿病管理の難易度は自然と上がってしまうと考えたほうが自然です。
寒さが交感神経を刺激して血糖値を押し上げる
なぜ寒くなると血糖値が上がるのかという疑問に対し、BMJ Open Diabetes Research & Careなどの研究では、生理学的なメカニズムが指摘されています。私たちの体は寒さを感じると、体温を維持するために交感神経を活発に働かせます。このとき、アドレナリンなどのホルモンが分泌されますが、これらのホルモンには肝臓に貯えられた糖を血液中に放出させる働きがあります。さらに、寒さによるストレスはインスリンの効きを悪くするインスリン抵抗性を高めてしまうため、結果として血液中の糖分が処理されにくくなり、血糖値が上昇しやすい体質へと変化してしまうのです。

日照時間の短縮と身体活動量の低下が拍車をかける
冬は気温の低下だけでなく、日照時間が短くなることも血糖値に悪影響を及ぼします。日照時間が減ると、セロトニンという脳内物質のバランスが崩れ、食欲が増進したり甘いものが欲しくなったりする傾向が強まります。また、外が寒いために散歩や買い物などの外出機会が減り、家の中で過ごす時間が増えることで、身体活動量が大幅に減少してしまいます。食べたエネルギーを消費する機会が減る一方で、体は寒さに耐えるためにエネルギーを溜め込もうとするため、摂取と消費のバランスが崩れてしまうのは当然の結果と言えるでしょう。
冬を乗り切るための具体的な対策と心構え
冬の血糖上昇を防ぐためには、まず室内の温度を一定に保ち、体に過度な寒冷ストレスを与えないことが重要です。外出時にはしっかりと防寒対策を行い、交感神経の過剰な興奮を抑えるようにしましょう。また、外に出るのが億劫な日は、室内でできる軽いストレッチやスクワットを取り入れるだけでも、筋肉での糖利用を促進する効果が期待できます。数値が悪化したからといって自分を責めすぎる必要はありませんが、冬特有の体のメカニズムを理解して、主治医と相談しながら薬の調整や生活習慣の見直しを行う柔軟な姿勢が求められます。
患者様からよくあるQ&A
Q:冬に数値が上がるのは、私の努力が足りないからでしょうか?
A:いいえ、必ずしもそうではありません。論文データが示す通り、気温の低下という物理的な要因で数値は自然と上がりやすくなります。もちろん食事や運動も大切ですが、体の生理的な反応も大きいので、あまりご自身を責めないでください。
Q:家の中でも寒さ対策をすれば血糖値は安定しますか?
A:はい、有効な手段の一つです。急激な温度変化(ヒートショックなど)は自律神経を乱し、血糖変動を大きくします。リビングだけでなく、脱衣所やトイレなども暖かく保つことで、体へのストレスを減らすことができます。
Q:冬の間だけインスリンや飲み薬を増やす必要はありますか?
A:患者様の病態や数値の上がり方によります。季節によってお薬の量を微調整することは珍しいことではありません。ヘモグロビンA1cが目立って上昇している場合は、冬の間だけの期間限定で対策を強化することもありますので、ぜひ外来でご相談ください。
まとめ
冬に血糖値が上がる現象は、多くの糖尿病患者様に見られる共通の課題です。その背景には、寒さによる交感神経の活性化やインスリン抵抗性の増大、そして日照時間短縮に伴う活動量の低下や食行動の変化といった、複数の科学的根拠が存在します。医学論文でも冬のヘモグロビンA1c上昇は明確に示されており、これは個人の意志の強さだけで制御できるものではありません。大切なのは、冬は数値が上がりやすい時期であると正しく認識し、住環境の整備や室内での運動、食事の質に少しだけ気を配ることです。一人で悩まずに、私たち医療スタッフと一緒に、季節に合わせた最適なコントロール方法を見つけていきましょう。
引用論文一覧
札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック 院長 小野渉
当院では糖尿病外来、生活習慣病外来、糖尿病患者を対象とした肥満外来、管理栄養士による栄養指導を行っております。 札幌市、札幌駅近郊で糖尿病、生活習慣病、肥満にお悩みの方はぜひご来院ください。
冬の血糖管理について、具体的な食事メニューの相談や運動方法の提案も行っております。次回の診察時に、今の生活で困っていることを詳しくお聞かせいただけますか?


