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砂糖とブドウ糖の違いは?医師が教える「太りやすさ」と血糖値の関係

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。仕事の合間の甘いコーヒーや、食後のデザート。ホッと一息つく大切な時間ですよね。 私たちが口にする「甘いもの」ですが、それが「砂糖」なのか「ブドウ糖」なのか、意識して食べている方はほとんどいらっしゃらないと思います。しかし、これら二つの糖は、舌で感じる甘さは似ていても、体内での代謝経路や健康への影響は全く別物と言ってよいほどの違いがあります。特に、砂糖に半分含まれている果糖という成分が、肥満や生活習慣病のリスクを大きく左右することが最新の医学研究で明らかになっています。この記事では、砂糖とブドウ糖の決定的な構造の違いから、食欲ホルモンへの影響、そして内臓脂肪蓄積のリスクについて、信頼できる医学論文を基に糖尿病内科医の目線から詳しく解説していきます。

ブドウ糖と果糖が結合した砂糖の化学的構造と吸収の違い

私たちが普段料理やお菓子作りで使用している砂糖(スクロース)と、脳や筋肉のエネルギー源として知られるブドウ糖(グルコース)の最大の違いは、その化学的な構造にあります。ブドウ糖はこれ以上分解できない最小単位の単糖類であり、摂取すると速やかに小腸から吸収されて血液中に入り、全身の細胞でエネルギーとして利用されます。一方で、砂糖は二糖類と呼ばれ、ブドウ糖と果糖(フルクトース)が1対1の割合で結合してできています。つまり、砂糖を摂取するということは、ブドウ糖と同時に同量の果糖を摂取していることになるのです。この砂糖に含まれる果糖こそが、代謝においてブドウ糖とは異なる複雑な挙動を示し、健康へのリスク要因となることが分かっています。

スクロース - Wikipedia

全身で使われるブドウ糖と肝臓で脂肪に変わる砂糖の代謝経路

摂取された後の運命も、この二つの糖では大きく異なります。ブドウ糖は血液に乗って全身を巡り、インスリンの助けを借りて筋肉や脳細胞に取り込まれてエネルギーとして消費されますが、砂糖に含まれる果糖は全身の細胞ではほとんど利用されません。果糖のほぼ全ては肝臓でのみ代謝されるという特徴を持っており、ここで大きな問題が生じます。医学誌The Journal of Clinical Investigationに掲載されたStanhopeらの研究によると、果糖を過剰に摂取すると肝臓での処理能力を超えてしまい、余った分が肝臓内で直接的に中性脂肪へと合成されることが示されています。これが脂肪肝や内臓脂肪の蓄積を招く主要な原因となっており、ブドウ糖単体での摂取に比べて、砂糖(果糖)の摂取は代謝異常を引き起こしやすいのです。Glucose-6 Phosphate, a Central Hub for Liver Carbohydrate Metabolism

満腹ホルモンが出にくく食べ過ぎを招く砂糖の恐ろしい性質

同じカロリーを摂取したとしても、ブドウ糖と砂糖では脳が感じる満腹感に大きな差が生じることが報告されています。医学誌Journal of Clinical Endocrinology and Metabolismに掲載されたTeffらの研究では、ブドウ糖を摂取した場合には血糖値の上昇に伴ってインスリンが分泌され、満腹ホルモンであるレプチンが増加することで食欲が抑制されることが確認されました。しかし、砂糖の成分である果糖を摂取してもインスリンやレプチンの分泌はほとんど刺激されず、逆に空腹ホルモンであるグレリンの濃度も下がらないことが判明しました。つまり、砂糖や果糖入りの飲料をいくら飲んでも脳の満腹スイッチが入らず、結果としてカロリーの過剰摂取や肥満につながりやすいという医学的なメカニズムが存在するのです。

内臓脂肪を増やしインスリン抵抗性を悪化させる果糖のリスク

砂糖の摂取が体型や代謝に与える長期的な影響についても、衝撃的なデータが存在します。前述のStanhopeらの研究において、過体重の成人を対象に、カロリーの25%をブドウ糖飲料で摂るグループと、果糖飲料で摂るグループに分けて10週間追跡しました。その結果、両グループとも体重は同じように増加したにもかかわらず、お腹周りの内臓脂肪量は果糖を摂取したグループでのみ有意に増加していたのです。さらに、果糖摂取群では悪玉コレステロールの増加や、糖尿病の前段階であるインスリン抵抗性の悪化も認められました。これに対してブドウ糖摂取群ではそのような代謝異常は見られなかったことから、砂糖に含まれる果糖こそが、メタボリックシンドロームの真犯人である可能性が極めて高いと結論付けられています。

砂糖とブドウ糖の決定的な違いは、果糖が含まれていることによる代謝経路の差にありました。ブドウ糖は全身のエネルギーとして必須ですが、砂糖に含まれる果糖は肝臓で脂肪に変わりやすく、満腹感も得にくいという特徴があります。健康的なダイエットや代謝改善のためには、甘いお菓子やジュースに含まれる砂糖を極力控え、お米などのデンプンから分解されるブドウ糖を適度に摂取する食生活こそが、医学的に正しい選択と言えるでしょう。

患者様に外来でよく聞かれる質問をまとめてみました!!

Q1. 果物にも「果糖」が含まれていますが、食べない方がいいのでしょうか? A. 果物は食べても大丈夫です。ジュースではなく「生のまま」食べましょう。 確かに果物には果糖が含まれていますが、同時にお菓子にはない「食物繊維」やビタミンが豊富に含まれています。この食物繊維が壁となって糖の吸収を穏やかにしてくれるため、適量であれば肝臓への負担は大きくありません。ただし、ジューサーで絞ったり市販のフルーツジュースにしたりすると、食物繊維が壊れて果糖が直接吸収されやすくなるため、内臓脂肪の原因になりかねません。果物は「噛んで食べる」のが鉄則です。

Q2. 三温糖や黒糖、はちみつなら体に良いと聞きましたが? A. 白砂糖と代謝はほぼ変わりません。摂りすぎには注意が必要です。 黒糖やはちみつにはミネラルが微量に含まれていますが、主成分は白砂糖と同じく「ブドウ糖と果糖が結合したショ糖(スクロース)」です。つまり、体の中に入れば白砂糖と同じように肝臓で脂肪に変わりやすい性質を持っています。「体に良いから」といって使いすぎてしまっては本末転倒ですので、白砂糖と同じように量を控える意識が大切です。

Q3. 最近「ブドウ糖」のラムネやお菓子が人気ですが、おすすめですか? A. 勉強や仕事の集中力アップには効果的ですが、食べ過ぎは血糖値を急上昇させます。 ブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源であり、砂糖(果糖)のように肝臓で脂肪になりにくいというメリットがあります。そのため、ここぞという時の集中力アップや疲労回復には非常に適しています。しかし、ブドウ糖は吸収が速く血糖値を急激に上げる(インスリンを大量に出させる)性質があるため、運動や頭を使わない時にたくさん食べると、逆に太る原因になります。あくまで「エネルギー補給」として活用しましょう。

Q4. 「人工甘味料」なら血糖値も上がらず、脂肪にもなりませんか? A. 血糖値は上がりませんが、甘味への依存には注意が必要です。 アスパルテームなどの人工甘味料は、カロリーゼロで血糖値を上げないため、糖尿病や肥満の対策として一時的に利用するのは有効な手段です。しかし、強い甘味に慣れてしまうと「もっと甘いものが欲しい」という欲求が消えず、結果的に他のお菓子を食べ過ぎてしまうことがあります。完全に頼り切るのではなく、徐々に「甘くない味」に慣れていくためのステップとして利用するのが賢い使い方です。

いかがだったでしょうか。また次のブログでお会いしましょう。

札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニック

院長 小野渉

参考文献

  1. Consuming fructose-sweetened, not glucose-sweetened, beverages increases visceral adiposity and lipids and decreases insulin sensitivity in overweight/obese humans. Stanhope KL, et al. J Clin Invest. 2009 May;119(5):1322-34.

  2. Dietary fructose reduces circulating insulin and leptin, attenuates postprandial suppression of ghrelin, and increases triglycerides in women. Teff KL, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2004 Jun;89(6):2963-72.

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