札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。「GLP-1ダイエット」として、ウゴービ(オゼンピック)やゼップバウンド(マンジャロ)といった注射薬が大きな話題となっています。しかし、医療の世界ではすでに、それらを過去のものにするかもしれない「次世代の最強薬」の研究が進んでいるのをご存知でしょうか?
その名は**「カグリセマ(CagriSema)」**。

現在開発中のこの新薬が、権威ある医学誌『The Lancet』で発表した臨床試験データは、まさに衝撃的なものでした。既存の薬を遥かに凌駕するその減量効果について、プロの医療ブロガーが論文を基に分かりやすく解説します。
目次
カグリセマとは?「実績ある成分」と「新成分」の最強タッグ
カグリセマは、全く新しい一つの成分ではなく、2つの異なる薬を組み合わせた**「合剤」**です。
1つ目の成分は、すでにおなじみの**「セマグルチド」**。これは、ダイエット薬として承認されている「ウゴービ」や、糖尿病治療薬「オゼンピック」と同じ成分であり、強力な食欲抑制効果が実証されています。
そして2つ目の成分が、今回新しく加わった**「カグリリンチド」**です。これは膵臓から分泌される「アミリン」というホルモンを模倣したもので、セマグルチドとは違うルートで強力な満腹感をもたらします。
この2つを一本の注射にまとめたのがカグリセマです。「1+1」が単なる2ではなく、相乗効果で3にも4にもなることが期待されているのです。

論文が証明した「桁違い」の威力。単剤の3倍痩せた!?
2023年、世界最高峰の医学誌『The Lancet』に、カグリセマの第2相臨床試験の結果が発表されました。この試験は、2型糖尿病の患者さんを対象に行われました。
通常、糖尿病の患者さんはインスリン抵抗性などの影響で、健康な人に比べて体重が落ちにくい傾向にあります。しかし、結果は驚くべきものでした。
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セマグルチド(オゼンピックの成分)を単独で使ったグループ:平均体重減少率 約5.1%
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カグリセマ(併用)を使ったグループ:平均体重減少率 約15.6%
なんと、同じ期間(32週間)で、セマグルチド単独の約3倍もの体重減少を達成したのです。痩せにくい糖尿病患者さんで、たった半年ちょっとで体重の15%以上が減るというのは、これまでの常識を覆す桁違いのデータと言えます。
なぜそんなに効く?「ダブル食欲ブロック」の仕組み
なぜカグリセマはこれほど強力なのでしょうか?その秘密は、異なる2方向から食欲を「挟み撃ち」にするメカニズムにあります。
セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)は、脳に働きかけて「もうお腹いっぱいだよ」という指令を出し、胃の動きをゆっくりにします。これだけでも強力ですが、人によっては体が慣れて食欲が戻ってくることもあります。
そこを補うのが新成分のカグリリンチド(アミリンアナログ)です。アミリンは食事をすると分泌され、**「強烈な満腹感」**を引き起こすスイッチを押します。
この2つが同時に働くことで、食事を始めてすぐに「もう食べられない」という強い満腹感が得られ、その状態が長く続くため、摂取カロリーが劇的に減るのです。まさに「食欲を鉄壁ガードする」仕組みと言えるでしょう。
まとめ:ダイエット薬の「最終兵器」になるか
今回ご紹介した論文データは糖尿病患者さんを対象としたものでしたが、現在は「糖尿病のない肥満症の人」を対象とした、さらに大規模な最終段階の試験(第3相試験)が進行中です。
業界の予測では、糖尿病のない人であれば、現在最強と言われるマンジャロ(チルゼパチド)の効果(約20%減)すら超え、体重の25%近い減量を達成するのではないかと期待されています。
カグリセマはまだ開発中のため、すぐにクリニックで使えるわけではありません。しかし、肥満治療の未来を大きく変える可能性を秘めた「本命」であることは間違いありません。今後のニュースから目が離せません。
当院では糖尿病患者様を対象に肥満外来をおこなっております。興味のある方は是非ご来院ください。

