札幌駅近く、大通駅近くの小野百合内科クリニックです。みなさんは昆布にはヨードが多く含まれていることをご存知でしょうか。先日、甲状腺の数値が気になって受診された患者様から、診察室でこんな不安そうなご相談を受けました。 「先生、健康のためにと思って毎日昆布のお吸い物を作っていたのですが、知人に『橋本病の気があるなら昆布は毒だよ、甲状腺が悪くなるよ』と言われてしまって…。体に良いと思って続けていたのに、逆に私の甲状腺を痛めつけていたんでしょうか?」 このように、「海藻=甲状腺に悪い」という情報を耳にして、大好きなお味噌汁や和食を一切絶ってしまう患者様は少なくありません。しかし、極端な制限は本当に必要なのでしょうか。今回は、私たち日本人の食生活と切っても切り離せない「ヨウ素(ヨード)」と甲状腺の深い関係について、内科医の立場から正しく解説します。このブログを読んで甲状腺とヨードの関係についての理解を深めていただければ幸いです。
目次
はじめに:ヨウ素(ヨード)とは?
ヨウ素は、昆布・わかめ・のりなど海藻類に豊富に含まれるミネラルです。日本人の食生活では欠かせない“だし文化”の中心となる昆布をはじめ、多くの食品や調味料にふくまれています。
- 甲状腺ホルモンの原料
ヨウ素は甲状腺でホルモン(T3・T4)を合成するための重要な原材料。体の代謝機能を支え、子どもの成長や体温調整などにも深くかかわっています。 - 必要量はごくわずか
日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、成人のヨウ素推奨量は1日 0.095〜0.13mg(= 95〜130μg)程度 とされています(WHOの基準では150μg前後、状況によってはやや増減します)。しかし、海藻類や和食文化をもちいる日本では、知らぬ間に必要量を大きく超えてしまうことが珍しくありません。
日本人はヨード摂取量が多い??
実は、世界的に見ると日本人はヨウ素の摂取量が多い地域とされています。
- 昆布を使っただし
- わかめやひじき、のりなど海藻類の豊富な食文化
- 昆布エキスを使った加工食品・調味料
これらの食習慣によって、日本人はヨウ素を“不足するどころか過剰摂取”する傾向があります。

ヨウ素と甲状腺ホルモンの関係
ヨウ素は甲状腺がホルモンを作る上で必須の原料です。甲状腺ホルモンは、
- 代謝を促進する
- 子どもの成長や組織の発達を助ける
- 体温・脈拍・精神活動を調節する
など、多岐にわたる機能を持っています。
ウォルフ-チャイコフ効果とは?
ヨウ素は“少なすぎても困る”一方、“多すぎても甲状腺の働きを抑制”してしまう性質があります。これを専門的に「ウォルフ-チャイコフ効果」と呼び、大量のヨウ素が体内に入ると、逆に甲状腺ホルモンの合成がストップしてしまうことがあります。こうしたメカニズムは短期間であれば自然に回復しますが、長期にわたって過剰摂取が続くと甲状腺機能の低下につながるリスクが高まります。
ヨウ素の過剰摂取がもたらすリスク
- 甲状腺機能低下症
毎日大量の昆布やひじき、もずくなどを食べ続けたり、ヨウ素含有のうがい薬を頻繁に使いすぎると、甲状腺ホルモンが作られなくなり甲状腺機能低下を起こすことがあります。- 症状: 倦怠感、むくみ、体重増加、寒がりなど
- 過剰摂取を中止すれば自然に回復する場合が多い
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
ヨウ素欠乏地域の人が突然大量のヨウ素を摂取すると、甲状腺ホルモンが一気に増え甲状腺機能亢進を起こすことがあります。日本は基本的にヨウ素充足地域ですが、バセドウ病の方は念のため過剰摂取を避けるほうが望ましいとされています。
バセドウ病・橋本病の方が気をつけるべきこと
1. バセドウ病
- 甲状腺機能が亢進し、動悸・息切れ・多汗・体重減少・イライラなどが起こる病気。
- 日本のようにヨウ素が豊富な食文化の国では、通常の食事量程度であれば過剰摂取には至りにくいと言われています。
- ただし検査(アイソトープ検査など)の前に一時的にヨウ素制限が必要になる場合あり。
2. 橋本病
- 甲状腺機能が低下し、倦怠感・むくみ・寒がり・体重増加などが起こる自己免疫性の病気。
- もともと甲状腺が弱っているところに、大量のヨウ素を取り続ける(昆布の根昆布水やイソジンうがい薬の過剰使用など)と、さらに甲状腺の働きが抑制されることがあります。
- 摂りすぎを中止すれば改善する例がほとんどなので、根昆布療法などは注意が必要です。
ヨウ素制限が必要になるケース
- アイソトープ(放射性ヨウ素)検査・治療
ヨウ素が甲状腺に集まる特性を利用するため、検査や治療の1〜2週間ほど前からヨウ素を多く含む食品を制限します。- 入院患者さんには「ヨウ素制限食」を提供することが多い
- 外来の方には自宅で作りやすいヨウ素制限レシピを紹介
- 放射性ヨウ素内用療法後
バセドウ病や甲状腺腫瘍の治療に放射性ヨウ素を使うと、その後に甲状腺機能が低下することがあり、定期的な経過観察や必要に応じた甲状腺ホルモン補充が必要になります。
ヨウ素を多く含む食品
海藻類
- 昆布(とろろ昆布、佃煮、昆布茶 など)
- ひじき
- わかめ
- のり
- もずく、めかぶ
- 寒天・ところてん
特に昆布は群を抜いて高いヨウ素含有量をもつため、毎日食べ続けると過剰摂取のリスクが高まります。
昆布エキス入り調味料
- だし入り醤油・味噌・ソース・ドレッシング
- すし酢
- 複合調味料・合わせ調味料
- 昆布エキス入りのスポーツドリンク、栄養ドリンク、チューブタイプ栄養補助食品など
飲み物
- 昆布茶
- 一部スポーツドリンクや栄養ドリンクに含まれる場合がある
- カロリーメイトドリンクやチューブタイプに「昆布エキス」が使われるケースなど
- 外食や加工食品で気をつけたいポイント
- 和食
だしに昆布が使われることが多く、味噌汁や麺類、漬物、寿司などに含まれる可能性大。検査や治療前のヨウ素制限中は避けたほうが無難です。 - 洋食・中華
和風パスタ、和風ステーキなど「和風○○」がつく料理は注意。ラーメンやキムチも昆布だしや昆布エキスが使われることがあります。 - ファストフード
“和風ハンバーガー”“和風ドレッシング”など、名称に“和風”がつくものは昆布だしが潜んでいる場合あり。 - 加工食品
カップ麺、冷凍食品などに「昆布エキス」「海藻エキス」が原材料表示されている場合があります。必ず表示を確認しましょう。
ヨウ素系うがい薬(イソジンなど)について
イソジンガーグルなどのうがい薬は、ポビドンヨードを主成分としており、1回のうがいでも10mg以上のヨウ素が含まれている可能性があります。
- 長期連用は甲状腺機能に影響を与えることがあるため、感染症対策で頻繁に使い続ける場合は注意が必要です。
- 甲状腺の病気がある方は特に医師と相談のうえ使用してください。

まとめ:上手にヨウ素とつきあおう
- ヨウ素は甲状腺ホルモンを作る必須ミネラルですが、日本人の場合、不足よりも過剰摂取のリスクが高い傾向があります。
- 普段の食事で海藻類を適度に摂るのは健康的ですが、毎日多量の昆布やイソジンうがい薬の過剰使用などは甲状腺機能を低下させることも。
- バセドウ病・橋本病など甲状腺疾患のある方は、必要以上に海藻を摂らない・根昆布療法を行わないなど、医師の指導を受けながら日常生活を送ることが大切です。
- アイソトープ検査や治療でヨウ素を制限する必要がある場合は、指定された期間だけ厳密に制限すれば問題ありません。
Q. 橋本病と診断されました。昆布だしのお味噌汁はもう飲めないのでしょうか?
A. 普通の濃さのお味噌汁なら、毎日飲んでも問題ありません。 「昆布=絶対禁止」と誤解されがちですが、だしとして使う程度であれば、極端な過剰摂取にはなりません。避けるべきなのは、「昆布そのものを毎日食べる(おやつ昆布や昆布の佃煮など)」ことや、「根昆布水などの濃縮エキスを毎日飲む」ことです。普通に和食を楽しむ分には、あまり神経質にならなくても大丈夫ですよ。
Q. 風邪予防でイソジン(ヨード系うがい薬)を毎日使っていますが、大丈夫ですか?
A. 毎日の習慣にするのは避けましょう。 ヨード系のうがい薬は殺菌力が強い反面、粘膜からヨウ素が吸収されやすいため、毎日使い続けると甲状腺機能に影響が出ることがあります。風邪を引いた時の数日間だけ使うなら問題ありませんが、毎日の予防用としては「アズレン系」のうがい薬や、単なる水でのうがいをお勧めします。
Q. 妊娠中ですが、赤ちゃんのためにヨウ素は摂った方がいいですか?控えた方がいいですか?
A. 過剰摂取は避けるべきですが、極端な制限もいけません。 ヨウ素は赤ちゃんの脳や骨の成長に欠かせない栄養素です。日本人の通常の食生活を送っていれば不足することはまずありませんので、意識してサプリメントで足す必要はありません。逆に、過剰に摂りすぎると赤ちゃんの甲状腺機能に影響することもあるため、「普通の食事」を心がけるのが一番です。
もし甲状腺機能に関する不安がある場合や、慢性の疲労感・むくみ・体重増加・動悸・イライラなどの症状が続く場合は、早めに医療機関へご相談ください。ヨウ素とのかかわりや甲状腺機能をチェックすることで、原因がわかるケースも少なくありません。
当院では橋本病やバセドウ病に対しての甲状腺外来を行っております。ぜひご来院ください。


